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「こいつぁ、うめぇや!」
目の前の大量のナポリタンを頬張りつつアレクセイが声を上げ、アレクセイの隣に座る夏彦もうんうんと頷いて賛意を示す。
ナポリタンは、エマの得意料理の一つで、夏彦と夏音が世界一ウマイと絶賛してやまない二人の大好物なのだ。それに、材料こそ全て合成濃縮食品だが、エマとほのか、そしてなんとか復活した夏音の三人の尽力でナポリタン以外にもサラダやスープといった料理が食卓に並んでおり、その足元では、ブンタがスティック状に切ってもらったニンジン (これだけは、なぜか戦前と同じように普通に農場で栽培されている)を「こりこりこりこり」と夢中で噛み砕いている。
敵に襲われて敗北した後とは思えない中々に豪勢な夕食だ。
「私と多賀城さんと夏音ちゃん、三人の合作よ。エンドウ豆のサラダも食べてみて」
「はにゅん! おいしいです! 私、エンドウ豆ってスープしか飲んだ事ないんですけど、サラダも全然アリですね」
「ええ。モッツァレラチーズがいい感じでしょう? ちなみに私もそれ、夏音ちゃんから教えてもらったのよ。ね、夏音ちゃん?」
「…………」
「夏音さん?」
「…………」
エマとほのかの問い掛けに夏音は、黙って俯いたまま目の前の料理を見つめていた。
夏彦もテーブル越しに夏音の顔を覘き込む。
「大丈夫か? 夏音?」
「うん。ごめん。ただ……。ただ、さくらちゃん、今頃どうしてるかなって……夏彦くん――」
夏音がその瞳に涙を滲ませて夏彦に尋ねた。
「さくらちゃん、大丈夫だよね? 戦略生体兵器だもん、まさか、殺されちゃったりしないよね? 痛い事とか……ひどい事とかされたりしてないよね? ね?」
そして、皆が見つめる中、夏音は、ぽろぽろと涙をこぼした。
隣に座るエマが夏音の肩に手を回し「大丈夫、大丈夫よ」と囁いて抱き寄せた。
アレクセイが手にしていたフォークをテーブルに置くと真剣な面持ちで夏音を見つめて言った。
「その心配はねぇよ、嬢ちゃん。あの嬢ちゃんが戦略生体兵器だってぇんなら、連中は下手に手出しできねぇ筈さ。なあ、夏彦さんよ?」
「ああ。相手が誰なのかイマイチ分からなかったが、例え誰であっても、さくらが戦略生体兵器である事を知っていれば、さくらを追い詰める事がどれだけ危険か知らないって事は無い筈だ。戦略生体兵器に、焼き殺されたいというなら話は別だがな」
いや――――。
話しかけて夏彦は、口を噤んだ。
これから話す事は、あまりにも重大だったからだ。
それは、戦略生体兵器『さくら』とそれにまつわる一連の事。
『さくら』を守るために命を落とした園田大尉とE2小隊の仲間達の事。
パシフィック・サーバントとのやり取りの事。
その時に相対した誉さやか生徒隊長の事。
どれも、聞いてしまえば、深入りしてしまえば後に引き返す事は出来なくなるに違いない。
だからこそ、ここで確認したいのだ。
エマに視線を向けると彼女も同じ考えらしく、夏彦にこっくりと頷いてみせた。
夏彦は、アレクセイに向っておもむろに口を開いた。
「国府田さん、と言ったよな?」
「おいらけぇ? なんでぇ、改まって急に?」
「いや、二度も助けてもらったからこそ、ここで一度確認したかったんだ――」
アレクセイの灰色の瞳を見つめながら夏彦は、ゆっくりと隣に座る彼に向けて体の向きを変え居住まいを正した。
「あんた、何者なんだ?」




