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そう、バカみたいに強い。
だが――
夏彦は、目の前を横切った細長い物体を左手で握った。
視界の隅で、夏音が小さくガッツポーズをするのが見えた。
(隠れてろ、って言ったのにな……。ありがとな、夏音)
彼が手にしているのは、歴戦の友である電磁軍刀。
夏彦は、手にした軍刀を腰の位置まで下ろしゆっくりと身構えた。
チャキッ……という鯉口を切る音と共に現れる白銀の刀身。
その乱れに乱れた刃紋の上をうっすらと紫電の光が覆っている。
それは、かつて日本が技術大国と謳われ、世界から称賛されていた頃のあだ花。
拵えこそ量産された軍刀のそれではあるが、これは電磁軍刀の中の一級品中の一級品。
『習志野造兵工廠製 シホ○○○一七番軍刀』
わずか二振りしか作られなかった幻の電磁軍刀の一振り。
それが夏彦の愛刀だ。
夏彦は、正眼に構え、歩幅を狭く取る。
狭い室内で長刀である軍刀の攻撃方法は限られる。
だが、制約があるのは敵も一緒だった。
「はあああぁぁぁ!」
夏彦の体が一瞬消えた。
と、同時に繰り出された切っ先が僅かに敵の戦闘帽の脇を掠め、相手の体勢が崩れる。
夏彦は、さらに二撃、三撃と踏み込んで行き――
キンッ!
軍刀の刃が敵の左小手の部分の抗刃抗弾防具に食い込んでいた。
(俺がこの狭さ故に『突き』しか出来ないのと同様に、こいつもその俺の突きを避ける手段が、この狭さ故に限られる。そう――最後は、こうして受け止めるしかない!)
刃を手の甲の抗刃抗弾防具に食い込ませたまま、敵が僅かに下がった。
動きにしてほんの数センチ。
互いの力がせめぎ合う均衡状態の中での数センチ。
それは、敵の動きに初めて生まれた躊躇い。
ほんの僅かな、それこそ、針の先を通すような僅かな隙。
だが――第一級戦術生体兵器にとっては十分過ぎるほどの隙だった。
「おおおぉぉぉぉ!」
裂帛の気合と共に夏彦が全身の力を刃に込める。
だが、敵も声こそ出さないが、新たに繰り出されたその動きには、身の毛もよだつ殺気が満ちていた。
敵は、食い込んだ刃を受け流すべく左腕をその身に引き寄せ、反対の右腕で新たな技を発動すべくその身を奔らせる。
流れるようなその動きには全く無駄がない。
戦う為に生れて来た。
そんな言葉がぴったりのまさに神技とでも言うべき戦技だった。
夏彦の脳裏に悲鳴にも似た旋律が奔る。
まさにその時――
「その首、おいらがもらったぁ!」
開け放たれた玄関を潜り黒い影が躍り込んで来た。
――その声。
――その速さ。
両の手に握られた柄の長いハンマーを振りかぶり、その影は身に纏った藍色の印半纏の裾を翻しながら絶叫した。
「うおおぉぉぉ、極限豪力!」




