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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
55/133

[55]


 夏彦は、夏音を自分の背後に押し込むとゆっくりと身構える。

 

 第三次大戦中、大阪攻防戦で散々経験したシチュエーション。崩れかけたビルの一部屋一部屋を奪い合い、多くの敵味方が血を流したあの市街戦の日々。

 夏彦の得意とする近接戦闘は、あの日々の中で生まれたものだ。



「夏彦くん……」


「来るな! 隠れてろ!!」


 夏音が風呂場に隠れるのを気配で確認してから夏彦は、ゆっくりと人影に向い歩を進める。


(――――行くぞ!)


 夏彦の体躯が疾走する。

 四肢の神経を常人の域を遥かに超える電気信号の奔流が走り、圧倒的な速さと威力で繰り出される夏彦の神速の格闘術。

 幾多の敵を血祭りにあげて来た夏彦の拳が唸りを上げて黒い影に殺到する。

 が――


(なにっ!!)


 敵の反応は、第一級戦術生体兵器である夏彦より、コンマ一秒、否、それ以下の僅かの差で速かった。敵は夏彦の拳を紙一重でかわすと、すかさず夏彦の脇腹目がけて蹴りを見舞う。

 だが、かわされた右の拳に代わって無意識に動いた左腕がその蹴りをすかさずガードし、夏彦は刹那の差で、蹴りと連係する形で敵が繰り出した拳を避け、間合いを取った。

 夏彦の肩が大きく上下し、敵もまた肩を上下させている。


(……速いっ!) 


 スピード、技のキレ、そして何よりその反応速度。

 第一級戦術生体兵器でも屈指の、最強とまで謳われた夏彦の近接格闘術に全く引けを取らないばかりか、その反応速度は、紛れも無く夏彦を上回っている。


(戦術生体兵器……なのか?)


 いや、この動きは、そうとしか考えられない。

 しかも、上から「第一級」「第二級」「第三級」とランク付けされた内の「第一級」以上。


 それも、第一級の中でも最上位クラス。


 夏彦の背中を冷たい汗が伝っていく。

 夏彦は、意識的に呼吸をゆっくりと行い、間合いを慎重に図りつつ相手の出方を窺った。リビングの方から聞こえて来るエマ達の戦う音が気がかりだが、そうであればこそなおさら、この目の前の敵を一刻も早く無力化する必要がある。

 エマは、夏彦同様に第一級戦術生体兵器だが、近接戦闘はそれほど得意ではないのだ。

 しかも、狭い公団住宅の部屋の中。

 彼女の得意とする中距離・遠距離攻撃能力『精霊女王タイタニアン・バースト』は使えない。

 そして、それは、戦闘が専門では無いほのかについても同様である。


 

 だが、一番の問題は、さくらだ。



 戦略生体兵器である彼女は、戦略的な攻撃のみに特化しているため、中距離・遠距離、至近距離と言った通常の戦闘においては全くの素人同然なのだ。

 夏彦の瞳に焦りが浮かんでいた。

 この状況で、そのような心理状態がまずいのは、分かっているのだが……。



「エマ! そっちは、何人いる?」


「四人よ! あっ、三人になったわ! ナイスよ、多賀城さん!!」 


「はにゅんっ! さくらさんに触ったら許しませんっ! 電波輻射(ノイズメーカー)!!」



 夏彦は、心中密かに微笑んだ。

 顔こそ笑う事は出来ないが、エマのいかにも彼女らしい言葉と、出会ったばかりのほのかの思わぬ奮戦ぶりに緊張し切った心が微かに緩んだのだ。

 そして、そんなほのかの気合いの入ったかわいらしい声がなおも壁越しに聞こえて来る。



「ウィンターズ先輩!」


「ええ! ここは、私達で食い止めましょう。夏彦、そっちはどう?」


「……一人だが、バカみたいに強い!」



 冷や汗を流しつつ夏彦は背中越しに叫んだ。


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