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回りの生徒達の喧騒が遠い世界の事のように思えるそんな沈黙がしばしその場を支配した。
さやかは、目線だけは夏彦から外さずに湯呑の緑茶を一口飲んだ。
「……分かったわ。でも、最後に聞かせて。私が情報部の記録室で読んだ軍の作戦詳報では大阪攻防戦でさくらちゃんを喪失した事になってた。軍や政府は、さくらちゃんが、その欠陥のせいで戦死したんだと思い込んでる。でね、疑問なんだけど、記録にあったさくらちゃんの欠陥は、私自身どう考えても政府や軍が思う通り、死を逃れられるとは思えない物だった。さくらちゃんが生き延びられた理由は、何だったのかな? もちろん彼女の能力上の欠陥が何らかの理由で補われて、って言う事なんだろうけど……もしかして、篠塚くん達が?」
「いえ。ちなみに先輩の読まれた大阪攻防戦時の作戦詳報の情報処理レベルは何級だったんですか?」
「Aクラス。それでも、さくらちゃんを運用した部隊の指揮官の名前や所属した隊員の名前、部隊の根拠地なんかは、全て伏せ字になってた。本当のところ、篠塚くん達がその部隊の隊員だった事も、入学する際に申告した軍歴を長い時間かけてパシフィック・サーバントの情報部が調べて初めて分かった事なの。というわけで私が戦略生体兵器『さくら』について知っている事はこれだけ。まあ、生徒隊長と言ってもこの程度なのよ、実際」
そう言って、さやかは夏彦とエマに向けて肩を竦めてみせた。
一方の夏彦はテーブルの一点を見つめ熟考する。
(この人は、どこまで『さくら』の事を知っているのか……)
因みに、さやかが読んだと言う情報処理レベルAクラスの作戦詳報は、佐官以上の高級将校のみに対して閲覧が許される『秘密指定文書』である。パシフィック・サーバントクラスの民間軍事会社だからこそと言うべきか、その情報収集能力には、舌を巻かざるを得ない。
だが――それでも知りたい、あるいは、俺の口から聞きたいと言う事なのか?
もしかしたら…………。
夏彦は、自身の顔を覘き込むエマの瞳を見返して反芻する。
(自身で口にしている通りこの人に知らされている情報には、偏りがあるのか……)
確かめる術は無いが……。
それに、この様子では隠した所でまた情報部とやらが調べ出すだろう。
さくらが喪失の認定を受けてからすでに三年以上の時間が経過しているのだ。
いつからパシフィック・サーバントがさくらを保有し始めたのかは不明だが、これだけの情報収集能力を持っていて彼女が生き延びたその理由や背景に全く思い当たらないというのも不自然である。
つまり、パシフィック・サーバント側がどのような情報を有しているのであれ、今彼女に対して隠しても、あまり意味は無いのかもしれない。
「……さくらを守ったのは、俺達でも無ければ、奇跡的な幸運でもありません。俺達も確かな事はわかりませんが……あの時の状況から考えて指揮官の園田大尉、園田あかり大尉がご自身の命と引き換えにその能力で守ったんだろうと俺達は思っています」
諦念するように悲しげな表情を浮かべるエマに頷き返して夏彦は言葉を続ける。
「大尉の能力『絶対防護』で」




