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「「!」」
夏彦とエマは思わず顔を見合わせた。
(誉生徒隊長は、さくらを――戦略生体兵器『さくら』を知っている!)
夏彦のアイコンタクトにエマも小さく頷く。
(なるほど、こう来るか……)
彼女こそが――パシフィック・サーバント側が寄こした使者。
つまり、世界第三位の実力を持つ民間軍事会社の意思なのだ。
夏彦は、必死で頭脳を回転させ、事態を分析しようと試みる。
が、すぐにやめた――分からない事が多すぎるのだ。
相手の出方を見てからでも遅くはない。なにせ、社会的な実力や組織的な背景を考えた場合、夏彦達の方が圧倒的に不利なのだ。それに、夏彦とエマがいくら戦闘能力に優れているからと言って、今ここで戦い、離脱を図るというのも出来ない相談だ。平時の街中で戦闘を行えば、それはただの犯罪であるし、そもそもさやかの実力だって実際の所は、全くの未知数。下手な手を打てばとんでもないババを引きかねない。
ただ、唯一つ救いなのは、これは先方にも言えることでもあると言うことだろう。
彼らだって衆人環視のこの場所で力づくで、さくらを奪い返すことは出来ないのだから。
つまり――和戦どちらにせよ、この場は彼女との『交渉』に賭けてみるほかない。
と、言っても手持ちのカードは、相手の方が圧倒的に分が良さそうではあるのだが。
ほぼ一瞬にして、そう結論に達した夏彦がエマを見ると、彼女もまた同じ結論に至ったのかなんとも微妙な表情でさやかの事を見つめていた。
尤も、その原因を作った当のさやかは、そんな二人の胸の内を知っているのかどうか、楽しげに食事を続けている。春雨サラダフリークだと言うほのかが、初めて家族に中華風春雨サラダを作った時の失敗談に声を上げて笑い、さくらに対してもにこやかに話しかけ、まるで『交渉』の場である事を感じさせない態度を貫いている。
まったく見事と言っていいぐらいに。
内心、感嘆する思いで夏彦とエマが見つめる中、さやかはゆったりと、だが女性としては、かなり早い食事を終えた。
さやかは、ゆっくりと箸を置き、夏彦とエマをまっすぐ見据えた。
すでに夏彦以外の三人の食事も終わっている。
さくらを挟んで隣の席に座るほのかの喉が、ごくりと鳴った。
そんなほのかと、不安げな表情を浮かべた始めたさくらに順に微笑みかけて、彼女は最初の口火を切った。
もう、後には戻れない。




