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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
43/133

[43]

 回りの生徒達の敬礼の波をかき分けるようにして現れたのは一人の上級生。



(ほまれ)セン……生徒隊長!」


「誉先輩でいいよ、ウィンターズさん」



 そこに立っていたのは中央軍事学院高等部、中等部全ての生徒達の頂点に立つ女子生徒。

 生徒隊長と呼称される事の多いこの三年生の女子生徒の名は、夏彦もよく知っている。


 誉さやか


 ぱっちりとしたやさしげな瞳とやや童顔ながら整った顔立ち。そして、肩まで伸ばしたセミロングの黒髪とその後ろに付けた大きめのリボンが特徴の一つ年上の少女。

 だが、無論、それだけではない。

 彼女は、現在の日本における巨大コングロマリット、誉財閥の一族の出ながら、その背景に一切頼らずに実力で現在の地位を掴み取ったのだ。

 しかも、彼女は学校創設以来初となる機械化人間兵器(メカニカル)の生徒隊長なのである。

 夏彦も、昨年の秋口に彼女が生徒隊長になると校内通信で聞いた際には、戦闘力で戦術生体兵器を上回る機械化人間兵器(メカニカル)が本当にいるのだろうかとエマと話した事を覚えている。実際、彼女の生徒隊長就任当初は、学内はその話で持ちきりであった。 

 さらに、だ。

 学内にこれほど第三次大戦従軍経験者が生徒に多くいるにも関わらず、彼女は第三次世界大戦への従軍経験が無く、その胸を飾る徽章の多くも学内での、パシフィック・サーバントでの実戦経験の物なのである。彼女は、所謂、大規模紛争を経験した事が無いのだ。


 戦闘力に加えて、その経験の浅さ。


 この人事に皆が一様に首を捻ってしまったのも無理も無かった。

 だが――


 彼女が旗振り役となって行われた意識改革による学内での戦術生体兵器と機械化人間兵器(メカニカル)の対立関係、緊張状態の緩和。

 シャワールームや更衣室、女子専用休憩室といった各種施設の整備による生徒たち特に女子生徒たちの生活環境の改善。

 そして、それによりもたらされた団結力が勝ち取った春の国防軍特別対抗演習における優秀な成績と社会からの高い評価。


 彼女が率いる生徒隊本部のここ数か月の活動がそう言った様々な成果を上げるに従い、彼女の抜擢が人の上に立つ者としての資質によるものだった事を誰もが認めざるを得なくなった。 

 食堂中の生徒が彼女を見て直立不動の姿勢と共に敬礼をするのは、なにもそういう慣習だからというだけでは無いと言う事だ。現に、他の女子生徒たち、特に下級生の彼女に対する視線は尊敬や憧れを通り越した一種の信仰のようなものすら感じるほどである。

 さやかは、手にしていたトレイを近くのテーブルの上に置くと、おもむろに回りの生徒達へ答礼を返し座るよう促した。

 がやがやと、また、元の喧騒が食堂を満たし始める中、その美しい隊長はエマの隣の夏彦に向けて話しかけてきた。やさしげなその両の瞳が、夏彦をまっすぐに見つめている。

 夏彦は、気付かれない事を祈りつつ大きく息を吸い込んだ。



「突然でごめんね。ウィンターズさんと昨日逢う約束していたんだけど、中々会えなくて、つい見掛けたものだから。お昼、ご一緒させてもらってもいいかな、篠塚くん? それに多賀城さんと――」



 と最後にさくらに向けて笑顔で問いかけて、その人は夏彦の瞳を覘き込むように見つめた。

 夏彦を見つめるその瞳は、どこまでも澄んでいて清らかだった。

 だが、その底は、他者には計り知れないほどに深く、推し量る事すら憚られるような何かがある――夏彦は、凍りついたように彼女の瞳を見つめ続けた。



「………………」


「………………」


「夏彦!」


「篠塚先輩!」



 エマとほのかに促されて我に返ると、目の前に座るさくらが、睨むようにして胡乱げに夏彦を見つめている。

 夏彦は、変化に乏しい自身の感情表現にこの時ばかりは感謝した。



「ええ、もちろん」


「ありがとう」



 さやかは、にっこり微笑むとトレイをほのか、さくらと順繰りに空いてるさくらの隣の席まで回してもらい彼女自身は、二人の後ろを通ってさくらの隣に座った。


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