[40]
お下げを揺らしつつほのかが、幾分緊張した面持ちで「日替わりランチA」を載せたお盆をテーブルの上に載せた。
今日の彼女は、エマと同様のキュロットスカートを基本とした群青色の制服姿だが、エマや夏彦のように徽章の類が沢山あると言う事は無く、彼女の場合は、左袖の「戦術生体兵器袖章」と第三ボタンに付けられた「第三次世界大戦従軍徽章」のみである。
ほのかと同じく「日替わりランチA」を選んだ夏彦とエマ、そして、一人「たぬきうどん」を選んださくらも席に着く。
ほのかは、隣に座るさくらを見つめてにっこりと微笑んだ。
「サイズぴったりだったみたいでよかったです」
「ああ。昨日といい、今日といい、すまなかったな」
「いいえ! いいんです……そんな…………」
そう言い淀んで、ほのかは、もぞもぞと身を捩る。
お下げの髪が頭の左右で揺れて、頬が仄かに朱に染まった。夏彦は、そんなほのかに重ねて礼を言う。実際、ほのかが、制服を貸してくれなければ、今日一日、どうやってさくらを護衛すればいいか見当もつかない状況に陥っていただろう。
戦後の混乱が、未だ尾を引いているとは言っても、ここは私服の女の子が許可無くうろついていていい場所では無いからだ。
「いや、おまえがいてくれたから、昨日、俺達は窮地を脱する事が出来たし、今日だってさくらを学校に潜り込ませる事が出来たんだ。だから……その、遠慮しないでもっと他の物食っていいんだぞ。かつ煮定食とか……今日は、ビフテキとかもあるらしいし……ちらしずしとか……どう……だろう?」
と、あまり年頃の少女向けとは思えない渋いメニューを提案してみせた夏彦に、ほのかは跳び上がるようにして答えた。
「いえ、その……わ、わたし体小さいし、少食だし、これで全然大丈夫です。それに、夏彦……じゃなくて、篠塚先輩もウィンターズ先輩も同じ定食ですから。お気遣い感謝で、いただきますです」
「多賀城さん、遠慮しなくていいのよ。私も昨日の事は、夏彦から聞いたわ。夏彦と、さくら――この子の名前よ――が無事に帰ってこられたのは、あなたの力が大きいわ。それに、夏彦は、こう見えてビンに小銭を溜めてたりするくらいだから、お金だって全然平気よ」
そう言って夏彦を横目で見つめるエマに夏彦は肩を竦めて見せる。
「今、実物貨幣なんて使えるのか? 俺が硬貨を集め始めたのもきっかけは、電子貨幣の流通が再開したからだぞ」
夏彦の言葉にエマは、おかしそうにクスリと笑った。
小銭を『ビンに溜めている』と言う事は、それは形のある実物貨幣を溜めている事を意味する。データ上の情報に過ぎない電子貨幣は溜めようが無いからだ。
夏彦が、硬貨を集めるようになったのは、戦後電子貨幣の流通が再開されるまでその代替として流通していた大昔の貨幣が手元に残ってしまったからというのも確かにあるが、実は純粋に実物貨幣に魅せられたからという面が大きい。
それも、わりとポピュラーな収集物である紙幣では無くコアなファンが多いという硬貨に。
夏彦は、そんな硬貨の中のある一枚に特に魅せられてこの趣味の世界の扉を叩いた。そのきっかけとなった一枚は、お守りとして今もポケットの中に入れて持ち歩いている。
そして、この硬貨は、夏音にもらったプレゼントでもあるのだ。
「これが、その一つ『五円玉』だ。まあ、見た事はあるだろうけど」
夏彦は、謙遜しつつポケットの中から彼のその『五円玉』を出して見せた。




