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「――で、多賀城は……」
「何も言わずに予備の制服を貸してくれたのね」
「ああ。俺が説明する間も無くな。まあ、なんにしても助かったよ」
エマと手を組んで歩くさくらがにっこりと微笑んだ。
そんなさくらに笑みを返しつつエマは、大食堂の方を眺めて言った。
「だから、さっき学内メールで連絡してたのね」
「ああ。昨日の礼と、今日の制服の礼に飯を奢ってやろうと思ってさ。それに――」
と、夏彦は、二人に顔を寄せ、声を顰める。
「ここだけの話だけど、多賀城が俺達の仲間になってくれたらな、と思ったんだ。まあ、これだけ世話になっていて虫のいい話だとは思うが……」
「味方……。うーん。でも、多賀城さんの能力は、攻撃型でも防御型でも無かった筈よ……」
「ああ、確かに」
と、そこまで言って夏彦は、遠い宙を相変わらずの無表情で見つめた。
そうなのだ。
彼女の専門は、戦闘や防御では無く妨害などの電子戦能力なのである。
そして、何よりも重要な点は、彼女は戦力の充実した部隊に居てこそ力を発揮するタイプの戦術生体兵器であると言う事なのだ。
だが、戦力が夏彦とエマの二人だけと言う現状ではその身を守るために彼女自身も戦う他はなく、その能力を満足に発揮するのは難しいだろう。
能力さえ存分に発揮出来れば、彼女は敵に対して大きな脅威となるだけにもったいない事この上ない。
でも――と、夏彦はため息交じりに言った。
「まあ、実際には、能力云々とか状況云々じゃなくて、あいつの人柄だな、きっと」
夏彦は、ぽつりと呟くように言った。
それは夏彦としては、中々に納得のいく答えであった気がしたのだが……。
そんな夏彦の言葉をエマは、いたずらっぽくその瞳を光らせて混ぜ返した。
「私や夏音ちゃんでは、不足かしら?」
「おいおい、そういう意味じゃないさ。純粋にあいつの責任感の強さや真面目さっていう点を俺は買ってるんだよ」
「昨日会って一回一緒に戦っただけなのに、そんな事まで分かってしまうの?」
――昔、私と打ち解けるのには結構時間掛かったのに?
珍しくおたおたと慌てる夏彦を上目遣いに見つめながらエマは、なおも意地悪く食い下がった。
エマに腕をからませたさくらが、そんな二人を面白そうに見つめている。
一方の夏彦は、そんなさくらの様子など知る余裕も無く脳をフル回転させて、全力で言葉を探す。状況的にも心情的にもエマの気分を損ねたくない。
(――エマは、不意打ちだから困る!)
「いや、それを言うなら……その……そら、あれだ、エマだって昨日会ったばかりだろう?」
「?」
「ブンタさ」
「……そうね」
「………………」
夏彦の必死の返し技に女子二人は、いたずらっぽく顔を見合わせる。
だが、ほどなく、エマが、くすくすと笑い出した。
「彼は、頼れる『兄い』でその上警衛隊の一員――」
――ウサギだけどね。
そう言ってエマは、さくらを引き寄せ彼女にも微笑みかける。
見れば、さくらまでもが、くすくすとおかしそうに笑っている。
(やれやれ、そう言う事か……)
ようやくエマにからかわれていた事に気が付いて夏彦も、通常の感情表現を持たない彼なりに精一杯破顔しようとし、苦笑した。尤も、他人から見れば、どう見ても彼が笑っているようには見えなかっただろうが。
だが、それでもエマには十分笑顔に見えているらしい。
彼女は、夏彦の腕にそっと頬を寄せ謳うように彼に問いかけた。
「冗談よ、夏彦。でも、人との出会いなんて確かにそんな物なのかもしれないわ。で、勝算はあるの?」
「そうだな…………」
夏彦は、辿りついた大食堂の扉を開いて二人を中へ導きつつ首を捻る。
食堂の中は、案の定腹を空かせきった生徒達や職員達で溢れていた。
そんな中、群がるように集まった生徒達と押し合いへしあいしつつ壁に掛かった液晶掲示板上のメニュー表を見つめるお下げの小柄な少女の姿があった。
(多賀城ほのか……か)
心なしか動きの硬いその後ろ姿は、間違いなく彼女のようだ。先に来ていたらしい。
夏彦は、小さくため息を吐き、エマに向けて例の彼特有の無表情な苦笑をしつつ呟いた。
「昼食のメニュー次第……かな」




