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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
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[38]

 

 ふっ、と目の前の大型モニターから人影が消えると同時に教室にチャイムの音が響き出した。

 

 まわりの生徒達が慌ただしく席を立ち、思い思いに教室を後にして行く。四時間目が終わり次は一時間の昼休み。

 一番近い大食堂は、生徒以外の学校職員、隣接するパシフィック・サーバントの職員達も利用するからその混雑ぶりは相当の物だ。早く行くに越した事は無い。

 微笑むエマに頷いて、夏彦はその肩に寄りかかって眠るさくらに声を掛ける。

 暫く声をかけた後そっと肩を揺さぶられて、さくらがようやくその瞼を開いた。



「ふふ、よく寝てたわね。まあ、私も大教室の授業は、いつも半分寝てるようなものだけど。

それにしても……その制服良く似合ってるわ。多賀城さんのお陰ね」


「そうだな。昨日と言い、今日と言い、多賀城には悪いことしたな」



 まだぼんやりとしているさくらを促し夏彦は席を立つ。折り畳み式の椅子が跳ねあがりバスンと鈍い音がした。


 夏彦やエマの在籍するこの中央軍事学院も他の国公立、私立の学校の例に漏れず、国語や英語、数学等の座学に関しては、文部省の指定業者によるサテライト授業を取り入れている。

 先の大戦による教職員の不足は、日本においてもかなり深刻で、比較的予算に余裕のあるこの学校ですら軍事学等の専門分野以外には教員が配置されていない。

 と言う訳で、この大教室での授業は実際の出席より各学期末に行われる考査によって成績が判断される事となっており、出席などもちろん採っていない。

 そんな訳で多少見慣れない顔――さくらのような――が潜り込んでいてもばれる気遣いは無く、現に彼女の顔に見とれる者はあっても不審に思った者はいなかったようだ。

 加えて彼女は中央軍事学院高等部の制服を着用している。


 今のさくらに対して不審を抱く者は、極めて限られた人間だろう。


 例えば――さくらが何者かを知っている者。

 つまりは、さくらを取り戻そうと、あるいは奪おうとする人間……。

 まあ、それは、ともかく――



「多賀城さんには、なんて言って納得してもらったの?」


「いや、特に何にも言ってないよ。エマがブンタを警衛隊詰め所に預けに行ってる間、どうしたもんかなぁ、ってさくらとベンチに二人で座ってたら、たまたま登校してきた多賀城と会って……」



 夏彦は、朝の事を思い返しつつさくらを見やる。

 彼女もこっくりとエマに頷いた。

 その朝、多賀城ほのかに出会った事は、これからの方針を決める分岐点だったと言っていい。もちろん「幸運(ラッキー)」だったという意味で。

 今朝早くに、夏彦、エマ、そして夏音とさくらが一致して決めたこれからの方針。


 さくらの自由をみんなで勝ち取る――。


 だが、とは言ってもやはり目先の彼女の安全をどう担保するのか、と言う事が案の定、夏彦達にとって最も重い命題になった。と言うのも、夏音は、ごくごく普通の女子中学生であるから、護衛など到底出来る訳も無く、それに何より今後の進路の為にも極力学校を休む訳にはいかないという事情がある。

 そして、その辺の事情は夏彦とエマのように特殊な学校に通う学生にしても変わらないからだ。

 

 特に中央軍事学院の場合、成績如何によっては、能力の有無や種類に関わらず、卒業と同時にいきなり戦場のど真ん中に配置される事だって十分にあり得るのだ。

 場所や任務の内容にある程度のえり好みが許されるのは学生の間だけの事なのである。

 

 だが――か、と言ってさくらを匿ってくれるあてが当然ある筈も無い。

 

 で……致し方なしに学校まで連れて来てしまった、と言う訳なのである。

 学校まで来れば、何かいい考えも浮かぶだろうという成行きまかせのやり方でしかなかったのだが、結果は、多賀城ほのかに予備の制服を貸してもらう事が出来たのだった。

 瓢箪から駒とは言うけれど、上手く行き過ぎてしまって少々怖いほどだ。

 一方のエマは、そんな夏彦の胸の内を知ってか知らずか、ふーむ、と小首を捻って考え込んでいる。

 もっとも、その表情は、何かを考え込むと言うよりは、なにやらひどく楽しげで答えはどうでもいいようだった。


 案外、エマはこの状況を楽しんでいるのかもしれない。


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