[37]
三人が落ち着くのを待って夏彦は、ゆっくりとさくらの前に歩み寄る。
潤んだ両の瞳が一心に夏彦を見つめている。
夏彦は、静かに問い掛けた。
「さくら、君は、パシフィック・サーバントの施設に戻りたいか?」
少し考えるようにさくらは首を傾げ、やがて、ゆっくりと横に振った。
「君は、このまま外の世界で生きていきたいと思うか?」
さくらは、夏彦の目を見つめたまま、やはり小さく首を傾げた。
だが――今度は、すぐに頷いてみせた。
「俺達は、君に協力してもいいか?」
さくらは、こっくりと頷いた。
「夏彦くん!」
「夏彦!」
夏彦は、大きく頷いた。
「戦争は終わった。だから、君は、もう自分で人生を選択していいんだ。『兵器』でも『人間』でも、どちらでも好きな生き方を選んでいいんだ。どういういきさつであそこに君が居たのか俺達には分からないし、君がどういう思いで戦後のこれまでを生きて来たのかも俺達には分からない。でも、これだけは言える。これからの君の人生は、君自身が決めていい。いや、本来そうあるべきなんだ。そして、そのための自由は――」
一端言葉を切り夏彦は、夏音の、エマの顔を順に見る。
そこに居るのは、いつもの二人。
その二人の瞳が、どこまで澄み切った温かみを浮かべて夏彦とさくらを見つめている。
かつて、夏彦が慕った上官――園田大尉がいつもそうであったように。
(大尉…………)
夏彦は、小さく息を吸い込み一言で言い切った。
「俺達が守る。いや、守らせてほしい。戦時中にした君への仕打ちの罪滅ぼしって訳じゃないが、そのまねごとをさせてほしい。それに、君を守りたい、助けたいと思うのは俺達だけの意思じゃない――」
体を硬くし懸命に夏彦の言葉に耳を傾けるさくらの瞳を見つめて夏彦は、なおも畳みかけるように彼女に言った。
「亡くなった園田大尉の遺志を継ぐ事でもあるんだ」
「…………」
さくらは、両の瞳を見開いたまま、夏彦の顔を見つめていた。
そして、ゆっくりとエマ、夏音と視線を転じて行く。
いつの間に来たのか足下にいたブンタがさくらに走り寄り「ぎゅっ!」と短く鳴いた。
さくらは、目をきゅっと閉じ、俯いた。
「さくらちゃん……」
「さくら……」
エマと夏音がさくらに歩み寄り、その顔をそっと覘き込む。
皆の問い掛けにゆっくりと顔を上げたさくらの頬を涙が一粒滑り落ちて行った。




