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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
34/133

[34]

 


 あの日から数日後。


 園田大尉の原隊であった(エコー)小隊の生き残り達が、爆心地へ園田大尉達を探しに行くと医療小隊のテントに居た夏彦とエマにそっと教えに来てくれたのだ。

 元々、(エコー)小隊の小隊長であった園田大尉を中心に選り抜きの戦術生体兵器を各小隊から集め、原隊の(エコー)小隊とは別に編成されたのが、『さくら』を運用するE2(エコー・ツー)小隊であり、元の(エコー)小隊のメンバーが選から漏れて何人かその後の(エコー)小隊に残っていたのだ。

 その彼らが、園田大尉と『さくら』を探しに行くと言って準備をしているという。

 その夜、夏彦とエマは、看護兵の目を盗み一路かつての戦場へ向った。

 途中で仲間の一人がくすねて来た放射線防護服に着替え、さらに別の場所から線量計(ガイガーカウンター)をくすねて装備した。

 軍律違反の救援行に参加したのは、いずれも(エコー)小隊の古株か、E2(エコー・ツー)小隊の生き残りと言ったメンツで、全部で十人だった。

 十人は塗りつぶされたような闇の中を、皆、ただただ無言でかつての戦場へ向けて全力で疾駆した。

 鉄帽(ヘルメット)に取り付けた暗視装置のほの暗い暗緑色の視界の中を世界の終わりのような景色だけが後方へと跳び退って行く。時折出くわす戦場掃除の民間軍事会社(PSC)の部隊を避けつつ十人は、爆心地へと急いだ。

 二時間後……一行は真っ暗な闇の中で狂ったように泣き叫ぶ線量計(ガイガーカウンター)を宥めたり、すかしたりしつつ、なんとか爆心地の手前十キロ地点まで辿り着いた。

 

 だが、そこが限界だった――。

 

 防護服の対放射線限度を大きく超えていたのだ。吠え狂う線量計(ガイガーカウンター)の警報と防護服の警告音が響く中、皆一様に防護服の中の汗みどろの顔を見合わせ頷いた。

 誰の胸にも同じ結論が浮かんでいた。

 ――――諦めざるを得ないか……。

 だが、その時、仲間の一人が妙な物を見つけたと足下を手で掘り起こし始めた。

 傍に居た者も手伝って掘り出したのは、金属樹脂製の靴底だった。

 


 それは、二十三・五サイズの女性用コンバットブーツの靴底だった。


 

 靴底に印字されたプリントは「メイド・イン・ジャパン」。

 皆が、鉄帽(ヘルメット)に付けられたライトで執拗に照らし、指でなぞり何度も確認した。

 何度、確認してもそれは一緒だった。

 事実は、いつだって一つしかないのだ。

 あの日、敵陣のど真ん中であるこの戦場(ばしょ)に居た人間でこのサイズの日本製コンバットブーツを履いていた人間は、園田大尉を入れて四人いた。うち二人は、この場所の遥か手前で戦死している。 

 そしていま一人は、皆の隣で防護服越しにこの光景を目の当たりにしている当事者だ。


 

 残りの一人は、園田大尉しかいない。


 

 そう、大尉しかいない……。

 分かっていたのだ。

 ただ、認めたくなかったのだ。

 心のどこかで間違いであって欲しい、と誰もが思っていた。

 それは、この場にいる者に共通する想いだった。

 大尉に生きていてほしい、生き延びていてほしい。

 例え、自分達が死んでも。

 自分達の命と引き換えであっても。

 大尉に生きていてほしい。

 それが、死んでいった仲間達、そして今ここにいる者達全ての心からの願いだった。

 だが……。

 誰ともなしに防護服越しに嗚咽が漏れ、靴底を持っていた者は、それを胸に抱き締めた。

 誰かの口から『さくら』を呼ぶ声が響く。

 他にも遺品が無いかと足下の泥を掻き分け懸命に探す者もいる。

 しかし、何も見つからなかった。

 あったのは、靴底だけだった。

 恐らく唯一、原形をとどめて戦略生体兵器の攻撃に耐えられたであろう靴底だけだった。

 他にある物と言えば、無限に広がる闇と風すら死に絶えたかのような戦場の跡のみ。

 もう、誰の目にも誤魔化しようが無かった。



 ――――園田あかり大尉は、戦略生体兵器の少女『さくら』と共に死んだのだ。


 

 

 そして、その夜以降夏彦の中の何かも死んだ。


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