[33]
「夏彦、もしかしたら……もしかしたらだけど……」
「『さくら』が生き残った理由か?」
「ええ。夏彦も?」
「ああ。俺達は多分、同じ事を考えてると思う」
夏彦の言葉にエマの青く澄んだ瞳が怯えたように震えていた。
夏彦は、目を閉じる。
そして、ゆっくりと一回呼吸してから目を開いた。
二人は、互いに頷いた。
事実は、一つしかないのだ。
「「大尉が『絶対防護』で『さくら』を守った」」
互いの言葉が重なった。
そう、それ以外考えられないから。
もちろん、今となっては、すべて推測にすぎない。
だが、『さくら』の攻撃は、いくら威力が強いと言っても、永久に攻撃し続けるという物では当然ない。園田大尉は、攻撃のためのエネルギーが尽きるまで彼女を『絶対防護』で守り、そして……大尉自身は、自分を守る分の力までをも『さくら』のために使ってしまった、と言う事に違いない。
そう――。
(大尉……)
表情で、声で、生身の人体感覚でその感情を発露できない夏彦の隣で、エマの吐息が震えていた。
彼の代わりにそうしていてくれるかのように震えていた。
彼女の手を握り締めた夏彦の手にぽたりと滴が落ちた。
「エマ……」
「違うの、夏彦。なんて言っていいか……上手く言えないけど…………。『さくら』が生きていてくれた事が嬉しいの。大尉は……みんなを守るために、いつも必死だったわ……それでも、何人も、何人も……毎日のように沢山の人が死んだ。一日が終わるたびにどこかのベッドが空になっているのを見て、私は毛布の中でよく泣いたわ。でも、誰よりも辛かったのは、大尉だった筈よ。守ろうとした人達の死を見せつけられて来た大尉だった筈なの。だから……だから……不謹慎かもしれないけど……大尉の気持ちなんて、まったく分かってないと自分でも思うけど…………でも――」
「……」
「大尉は、最後の最後で報われたんだなって……その証が『さくら』なんだなって…………」
「…………」
「それにね、夏彦……『さくら』の事、私ずっと後悔してた。もっと、もっと話したかった。もっともっと声を掛けてあげればよかったって。でも、当時の私は……命令に従ってあの子を無視した。……あんな事になって、私……本当に……どうして『さくら』に何もしてあげなかったんだろうって、本当は出来たんじゃなかったかなって……」
「『さくら』を兵器だと割り切っていたのは参謀の連中だけだっただろうな」
「覚えてる? 大尉が私達に『さくら』へ話しかける事を禁じた時の事」
「ああ。よく覚えてる。俺は大尉が泣くのをあの時初めて見た」
「大尉は、『さくら』に人として接していた唯一の大人だった。なのに…………」
それ以上言葉もなく頬を涙で濡らし続けるエマを見つめていた夏彦の脳裏に忘れかけていた記憶がまざまざと蘇って来た。




