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戦略生体兵器『さくら』は、彼女自身もその攻撃の巻き添えで死んだ筈だった。
彼女がその身に抱えた根本的な欠陥とは、そういうものだった筈だ。
本来、戦略生体兵器は、タイミング、攻撃方向、攻撃範囲、攻撃威力を自身で任意に調整出来る力を持っており、それ故に「意思を持った核弾頭」と呼ばれている。
だが、第三次大戦下のあの日、これまでの戦略生体兵器をはるかに上回る能力を有した新型ゆえに、その能力に欠陥を持った者が送り込まれて来た。
それが――新型戦略生体兵器『さくら』だった。
それまで日本が持っていた戦略生体兵器『うねび』『ねのひ』『みやび』の三体を圧倒的に上回る規模の新型カーボンナノファイバー製核融合炉を体内に持ち、全く新しい脳科学理論から脳改造手術が施された少女。
それは、絶望的な戦況を打破し、運命を覆す事を期した究極の兵器。
当時の日本に残された最後の希望だった。
そして、まさにそれゆえに肝心な能力を欠いていた。
否、与える余裕すらなかった、と言う事に違いない。
「『さくら』は、攻撃の威力と範囲を自分では調節出来ない……か」
「ええ、私達はそう聞かされていた。一端攻撃を始めたら、その桁はずれの攻撃力で自分自身をも破壊してしまう究極の兵器だって。だから、攻撃位置が限定されてしまって、あんな無理な作戦が必要になった、って……」
エマの肩が震えていた。
夏彦は、自身とエマのマグカップを床の上に置くとそっとエマの手を握った。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。大丈夫よ。でも……もう少しだけ……」
(エマ…………)
エマの手を握り締めつつ、夏彦はなんとか思考を纏めようとしていた。
『さくら』がなぜ生き残ったのか? 考えられる理由は、一つだけある。
最も残酷で、最もありそうな理由。
園田大尉なら必ずそうしたに違いない、と生きている『さくら』を目の前にして夏彦は初めてその考えに思い到った。




