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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
30/133

[30]

(エマは、いつも不意打ちだからな……)


 夏彦は、頬に残る彼女の唇の感触を確かめつつリビングへ戻り立てつけの悪い窓を開けた。

「少年兵社会復帰支援プログラム」の担当者が紹介してくれたこのアパートは、戦前に建てられた丈夫さだけが取り柄の古い公団住宅で、夏彦達の部屋は最上階である四階にある。

 

 本来、中央軍事学院は、中等部、高等部共に全寮制の学校であり、その生活は、軍隊に準じたものと定められている。だが、肝心の寮舎が、戦時中の空襲で隣接するパシフィック・サーバントの施設のとばっちりをもろに喰って、校舎共々更地にされてしまって以来、生徒達は自宅からの通学若しくは、学校近隣での下宿を余儀なくされている。

 無論、学校側も今日に至るまで細々と再建のための努力は続けて来たらしいのだが、そこはどうしても経営母体であるパシフィック・サーバントのオフィスなどの各種施設が優先されてしまい、再建されたのは結局、校舎とその周辺の施設止まり……。寮舎等の他の施設の復旧は遅々として進んでいないのが現状だ。それでも、事務局管理中隊の発表している計画では、今年の夏までに校舎が全て再建され、それに合わせて新たな寮舎の建設が始まり、来年の春ごろには戦前の体制に戻る予定でいるらしい。

 尤も、地方出身の生徒達の入寮が優先されるから、夏彦やエマと言った在方の生徒達の入寮はだいぶ先の事になるだろう。

 そんな事を頭の片隅でぼんやりと考えつつ、夏彦は窓からの景色を眺めた。

 別に面白い物は何もない。

 

 否、何もない。

 

 幅数百メートルの緩衝地帯を挟んで広がる化学汚染地帯(ノーマンズヒル)が見えるのみだ。

 と言っても、この化学汚染地帯(ノーマンズヒル)は内陸部にある物なので規模はそれほど大きくない。昨日行った市役所のある湾岸地域に点在する化学汚染地帯(ノーマンズヒル)は、あの一帯がかつて工業地帯でもあったため、目の前の化学汚染地帯(ノーマンズヒル)とは、比べ物にならないほどの量の化学兵器が撃ち込まれ、未だにペンペン草すら生えないと言われている始末だ。

 昨日は、行きは急いでいた上に、その後外に出たのが夜だったのでさほど目立たなかったが、昼間に行けば市役所の周辺にこの場所以上に広大な荒れ地が広がっているのが見えただろう。

 

 こうした全国にある化学汚染地帯(ノーマンズヒル)は、政府の委託を受けた業者が交代で二十四時間休まず除染作業を行っているが、そのあまりの広大さと除染の困難さに、これがいつ終わるのか誰にも見当がつかない状況だ。今、夏彦が見つめている緩衝地帯の向うでも、そんな絶望的な状況の中、除染業者達が日々奮闘している。


(国府田アレクセイ……。あの男も、今頃どこかの化学汚染地帯(ノーマンズヒル)にいるんだろうか……)


 と、小高くなった丘の向うから何人かの作業員が並んで歩いてくるのが見えた。緩衝地帯の中なので防護服は上半身部分を脱いで腰に巻いている。彼らは、これから交代しに除染基地(ベース)へ戻りそして眠るのだろう。


(うん? 気のせいか……)


 並んで歩いて来る作業員の一人が手を振ったように見えたのだが……。



「夏彦、コーヒーが入ったわ」


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