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長年の艦隊勤務で日に焼けた精悍な顔立ちと短く刈られた頭髪。
真っ白い軍服の肩に輝く最高位を表す金色の肩章と胸元に下がった第一級金鵄勲章。
間違いない――。
(連合艦隊司令長官漆原直道海軍卿!)
日本国防海軍の最高責任者であり第三次世界大戦勝利の最大の功労者だ。
なかば呆然とするさやかにマクドウェルが眼鏡を拭きつつ、つまらなさそうに手でイスを示した。
マクドウェルが示したのは彼の向い、漆原海軍卿の隣の席だ。
海軍卿に軽く会釈してさやかが鈴木秘書の引いてくれた椅子に腰を下ろすと、機械化召使が暖かいココアの入ったカップをコトリと机の上に置いて無言で背後へ下がった。この律儀な召使の人工知能は、メーカーの宣伝通り一目見ただけで人の好みが分かるらしい。
尤も、もうちょっと甘い方が、さやかは好きだ。
他の三人の前にもそれぞれ飲み物が行き渡った所で、マクドウェルが話を切り出した。
「誉さやか君。生徒隊長である君を呼び出したのは他でもない、ぜひとも君に担当してもらいたい重要な案件が発生したからだ。内容については、解説も含めてマイクから聞きたまえ。マイク」
マイクとファーストネームで呼ばれたコーガン警備部長は、ワイシャツの胸のポケットに入った老眼鏡を取り出すのに四苦八苦しつつ (胸板が厚すぎるのだ)、目の前に動画ブラウザを空中投影させた。
さやかの網膜投影式ブラウザも連動して自動起動し、動画の詳細な情報がアップされた。
タイトルは――「戦略生体兵器『さくら』」。
(戦略生体兵器!!)
目を見開いたさやかにコーガン警備部長は、重々しく頷いた。
「戦略生体兵器『さくら』――これを取り戻す事が君の任務だよ。まず、状況を簡単に説明すると――」
「待って下さい! これって……これってクアラルンプール条約に違反しているんじゃ――」
思わず声を荒げたさやかをコーガンは、苦笑いと共に手で制する。朴訥一辺倒のアイルランド系の蒼い瞳が「分かり切った事を言うな」とでも言うように静かに微笑んでいた。
「無論、これが何を意味するのかを僕らだって分からない訳じゃない。だからこそ、僕らには時間が無いのさ。だから、条約云々は後回しにして、まず先に状況を説明するよ。いいかい?今日の午後――」
そう言いつつ、コーガンが動画の再生を始める。このオフィス区画の端の方にある実験棟と呼ばれる個所のゲートから、次々と四輪駆動車が吐き出されて行く映像が現れた。三台目の四輪駆動車の後に出て来たバンの映像をコーガンの太い指がタップする。
「これが『さくら』を乗せたバンだ。最終目的地までは言えないが、僕達は『さくら』を移動させるために車列を組んで新潟港を目指していた。車列は、旧習志野市から高速道路湾岸七号線を北上して順調に進んでいたよ。だが、丁度、この辺り……旧船橋市に入った辺りだね、ここで襲撃を受けた」
「襲撃?」
「そう。しかも、目立つのを嫌って軽装備で車列を組んだのが裏目に出た。装甲車か無人戦闘車が一台でも居れば違ったんだろうがね」
「じゃ、じゃあ、『さくら』は――――」
思わず声を震わせたさやかに目の前の二人の役員は頷いた。
「だが、『さくら』を連れ去ったのは、襲撃者ではないんだ。襲撃者は、駆け付けた応援部隊が追い払ったよ」
「?」
「彼女を連れて行ったのは、もっと厄介な人物さ」




