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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
25/133

[25]

 さやかは、昼間の事を思い出してにんまりしつつ、そっと網膜投影式ブラウザを起動させた。

 

 網膜に浮かび上がったのは、一匹のウサギ。

 突如、警衛隊に加わったというもふもふの戦士。

 本人もすっかり警衛隊の一員になったつもりらしく、後ろ足で立ち上がり心なしか誇らしげに鼻をくんくんとさせる姿が堪らなくかわいらしい。

 この動画を量子メール経由で友人から貰ったさやかは、放課後になると矢も盾も止まらず、小隊の同期(クラスメイト)と一緒にそのウサギがいるという警衛隊の詰め所に見に行った。

 着いてみるとウサギは丁度飼い主と思しき女子生徒の胸に抱かれて眠っていた。

 

 抱いていたのは『精霊女王タイタニアン・バースト』の通り名を持つ金髪(ブロンド)の少女。

 

 実力もさることながら、その美しさと愛らしさが皆を虜にする学校のアイドルであり、相棒である『音速斬撃(ソニック・ブレイド)』こと篠塚夏彦と共にこの学校の双璧を成す最強の存在。

 まさに女王の通り名にふさわしいその少女の名は、エマ・ウィンターズ。

 

 一学年下の有名人だ。


(どうしよう……)

 

 振り返るクラスメイトにさやかもどう答えたものか瞬時に思い付かない。よもや、なにか不快な事を言われるとも、されるとも思わないけれど……。

 と言うのも、彼女とその相棒である『音速斬撃(ソニック・ブレイド)』こと篠塚夏彦には、生徒隊長である彼女を長とする生徒隊本部中隊への参加依頼をすでに二度断られているという事情があるからだ。 

 先代の生徒隊長も何度も断られ、二人を何としても生徒隊本部中隊へ加入させる事が、最重要引き継ぎ事項の一つになっている。


 まさか、私、二人に嫌われてる?



(うーん……)


(さやか~! 生徒隊長でしょ!)


 そんな具合で、さやか達が声を掛けようかどうか迷っていると、当のエマが二人ににっこりと微笑み掛けてきた。エマは、きょとんとするさやか達に歩み寄ると、そっと腕の中のウサギを見せてくれた。起こしてしまわないよう、さやか達もそっと覘き込む。母親の手に抱かれた赤ん坊のようにウサギは安心しきって無心に眠っていた。

 さやかは、そっと手を伸ばし、人指し指でウサギのおでこのあたりを撫でてみた。



「よく、眠ってる。この子、ウィンターズさんにすごい懐いてるね」



 声を顰めるさやかに、エマも囁くように言った。



「ええ。でも、私、この子に今日初めて会ったんですよ」


「「ええー。すごーい!!」」


「軍にいた頃に相棒と一緒にウサギを飼ってた事があるんです。だからかもしれません」

 


 そう言うと、エマはウサギの頭に愛おしげに頬を寄せた。



「相棒?」



 眉を顰めるクラスメイトにエマは、頬を仄かに染めつつ頷く。



「はい、大戦中ずっと一緒だったんです。彼も動物が好きで」


「それって、篠塚くんの事?」


「……はい」



 思わず身を乗り出すさやか達にエマは、頬を赤らめ恥ずかしそうに一言だけ言った。

 それから、エマを交えてその場で少しだけ話し、最後にもう一度だけウサギを撫でて、エマ達とは別れた。

 夕焼け色に染まる空を背にエマと寝ぼけたウサギが遠ざかるさやか達に手を振ってくれた。


(ウィンターズさん、いい子だったな。ちっとも、知らなかった。あーあ、量子メールじゃなくて、もっと早くに直接話しかけてればよかったな……)


 でも――さやかは、ふっ、と微笑んだ。


(また明日も逢う約束してくれたし。それに、あのウサギ……名前が『篠塚ブンタ』って……ウィンターズさん、どんだけ彼の事好きなんだか)


 胸の内でそう呟くと、さやかは名残惜しげに網膜投影式ブラウザをシャットダウンする。ウサギを真ん中に皆で撮った一枚が視界から消えると、さやかは、待合室に入って来た人物に視線を向けた。


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