[23]
後方で再び叫ぶアレクセイの声に励まされるように、夏彦は一枚だけ残ったバックドアを足で蹴破り、バンから身を乗り出し叫んだ。
「夏音、もう少し寄せられるか?」
「合点!」
「コースとスピードを三秒キープしてくれ! 多賀城!」
「わ、私も、戦術生体兵器のはしくれです。足止めくらいへっちゃらです。ま、ま、任せて下さい! は……はにゅん!」
バンが、また激しく揺れ、ほのかが思わず膝を付く。
もう、時間はない。
夏彦は、ほのかの手を取って助け起こすと、ポケットの音響手榴弾を全て取り出して彼女のタクティカルベストに押し込み、傾いた鉄帽のバンドを締め直してやった。
「すまない、多賀城。後を頼む!」
「は、はいぃ! ら……らじゃぁぁぁ!!」
ほのかの泣き声のような返事を背に夏彦はさくらを脇に抱え宙を跳んだ。
宙に居たのは、ほんのコンマ数秒。
さくらともども落ちるようにして側車に着地した。
夏彦は、ぽかんとするさくらの体に制服の上着を被せてやってから、改めて敵の位置を確認する。
アレクセイには、今度会う機会があったら礼を言わなければいけないだろう。彼が操る四輪駆動車は、ボコボコになってこそいるが敵を上手に牽制していて、装甲バンはそれ以上夏彦達の乗っていたバンへと距離を詰められないでいる。だが、装甲バンもなんとか前に出ようと必死だ。アレクセイもこれ以上は、持ち堪えられないだろう。
夏彦は、夏音に向って叫んだ。
「夏音、俺の合図でフルクラッチだ。一、二の三で行くぞ」
「一……」
夏彦は、側車の床に転がった雑多な品を漁る。程なく、目的の物をその手に握った。
音響手榴弾同様これも出来れば使いたくなかったのだが仕方がない。大きな事故の起こらない事を祈るばかりだ。
「二の……三! フルクラッチ!!」
言うが早いか、夏彦が前方へ向って発煙手榴弾を放り投げ、夏音がギアを七速に入れる。
猛烈な加速に夏彦は座席に叩きつけられ、彼の胸に顔を埋めたさくらもその身を硬くする。
もうもうと舞う煙幕の中を突っ切り、バイクは目の前に迫って来たインターへ道路脇の緑地帯を突っ切り、跳ぶように滑り込んだ。
後ろを見る余裕も無かったが、どうやら大きな事故を引き起こすような事も無く敵を振り切れたようだ。と、同時に周囲の異変を察知した夏彦は、膝の上のさくらを足の間に屈ませるとその体に被せた上着を頭の上まで引き上げる。
訝しむさくらに、夏彦は目立たぬよう口の前で人差し指を立ててみせた。
その時夏彦達の脇を逆走する形で、銃塔と各種誘導弾発射機を搭載した装輪装甲車が三台、高速道路へと猛スピードで走って行った。八つのコンバットタイヤを軋ませ疾走する車体にはパシフィック・サーバントのロゴと社名が大きく描かれている。
そして、時を同じくして頭上からも何やら物騒な音が轟き出した。
ようやく、応援部隊が到着したらしい。
「やれやれ……」
高速道路脇の密集した住宅街の屋根を舐めるようにして旋回し始めた『トンボ』の異名を持つ同社の無人戦闘ヘリを見つめて夏彦は相変わらずの無表情でそう呟いたのだった。




