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「か、夏音!」
夏音の声が聞こえたかと思った瞬間、距離を詰めようとしていた装甲バンが大きくスリップすると同時に横転、後方へとすっ飛んで行き、その脇を掠めるようにして夏音の操る深紅の蒸気バイクが、仁王立ちする例の印半纏の銀髪少年を側車に乗せ後方から疾走して来た。
バイクが抗電磁パルス誘導弾をルーフに載せた件の四輪駆動車の横に並ぶと、銀髪少年ことアレクセイが助手席に飛び付き、そのドアを古いポスターでも剥がすかのように引っ剥がして車内の敵を後方へ放り投げる。
アレクセイが跳び移ったのを確認して、夏音は夏彦達のバンの真後ろへとバイクを導いた。
「夏彦くん!」
「夏音、どうして高速を下りなかったんだ!」
「夏彦くんを置いて逃げられる訳ないよ! 夫婦は、何時だって一心同体なんだよ!」
「夏音……」
思わず絶句する夏彦に夏音は、にっこりと微笑んだ。
と、後ろの敵の四輪駆動車がクラクションを鳴らしライトを点滅させた。
何事かと思った夏彦が後方を見ると、運転席にはアレクセイが座っており、どういう訳かルーフで誘導弾を装填中だった筈の敵がサイドミラーにしがみ付いて引きずられている。
アレクセイが何か叫んだ。
「何? 聞こえないんだ!」
夏彦の叫びに、「ああ」と頷き、アレクセイは、自身の目の前のフロントガラスに拳をブチ込んだ。ガラスが砕け散り、サイドミラーにしがみ付いていた敵が道路の上を転がって行く。
ようやくアレクセイの声が聞こえた。
「輸送物資って、もしかしておまえさんの隣の女の子かぇ?」
「ああ、そうらしい!」
「その子は、やっぱり普通の子じゃねぇんだろうな、たぶん――」
四輪駆動車が、ブレーキを軋ませる音が響いた。
残っていた装甲バンがアレクセイの四輪駆動車へ体当たりして来のだ。
車内のアレクセイの体が左右に大きく揺さぶられ、衝撃が夏彦達にも伝わって来た。
それでも、なんとか体勢を立て直したアレクセイが大声で叫びながらフロントガラスから手を突き出し前方を指差す。バンのルーフハッチから前方を覘いたほのかも叫んだ。
「篠塚先輩、インターです!」
「おいらが足止めする! その子を連れて、早くずらかれ!!」
二人の声に夏彦は、一瞬逡巡する。
アレクセイやほのか、そして他の警備隊員達を置いて現場から離脱する事は、出来れば避けたい。
だが――
夏彦は、傍に立つ戦略生体兵器の少女に視線を向ける。
『さくら』は、バンの壁面に手を突きなんとか体を支えていた。
華奢な体を揺さぶられながら、必死の面持ちで自身を見つめ返して来たその瞳を見て、夏彦は決断した。




