[21]
その時、ドンッ!、という音と共に再びバンが大きく揺れた。立て掛けてあった小銃が床に音を立てて投げ出され、その傍を空薬きょうが左右へ転がって行く。
今の攻撃で、サスペンションがイカれたに違いない。
バンは左右へ大きく揺さぶられ、貨物室の向う側の運転席からも悲鳴じみた声が聞こえた。
夏彦は、負傷した警備員をほのかに任せ『さくら』の元へ。
ふらふらと危なげな足取りのさくらをなんとか腕に抱きとめた。
(本当に……『さくら』だ)
夏彦は、改めて思わざるを得ない。
黒く艶やかな髪と潤んだ瞳。
端正な顔立ちの中でもひと際目を引く黒い瞳が夏彦の顔を見つめていた。
――――と、先ほどまでとは明らかに違う、鈍器で殴られるような衝撃と同時に車内に風が吹き込んで来た。
「篠塚先輩!!」
ほのかの悲鳴のような呼び掛けに目を向けると、衝撃で引きちぎれたドアの一片が、道路の上を木の葉のように舞い、このバンを守っていた四輪駆動車が爆音と共に宙を舞って反対車線に消えて行った。
(抗電磁パルス誘導弾! あんな物まで持っているのか……)
あらゆる種類の電波妨害を無効化する最新鋭の歩兵火器。
中距離・遠距離攻撃を専門にするエマさえいれば、最新鋭とは言え、どうと言う事も無い歩兵火器だが、近接戦闘を専門とする夏彦にはどうにも抗し難い兵器だ。まさか、跳んでくる誘導弾を刀で真っ二つにするという訳にもいかないだろう。アニメではないのだ。
(まずい……まずい、まず過ぎる! 『電波輻射』なんぞで妨害できるものじゃなし……。考えろ、考えろ!)
夏彦は、持てる能力の全てを掛けて頭をフル回転させる。
だが、如何に頭脳を働かせようと前提条件が悪すぎる。
サスペンションをやられたと思しきバンは、左右に揺れ動き足下さえ覚束ない状態で、その上こちらには、小銃と拳銃意外にまともな火器が何もない。夏彦自身が持って来た音響手榴弾も一般の車両がこれだけまわりにいる状態では、危なくて使えたものではない。
事実上の八方塞がり。
手札は全て封じられた。
だが、そうして夏彦が悩んでいる間にもバンの後ろ、五十メートル程の位置にぴったりと張り付いた敵の四輪駆動車のルーフの上では、男が抗電磁パルス誘導弾の発射筒に次弾を装填中であり、さらに、その両サイドからは、敵の装甲バンが夏彦達のバンを襲撃すべく徐々に距離を詰めて来ている。
(これまでか…………)
と、思ったその時――
「夏彦くぅぅぅぅぅん!」




