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「おい」
「はにゅん?」
「もう大丈夫だ。俺は、味方だ」
「ふうぁぁぁん、怖かったですぅ……って、あなたは、確かあの――」
「高等部二学年大隊第一中隊の篠塚夏彦だ。おまえは……」
「高等部一学年大隊第二中隊の多賀城ほのかです」
「よし、多賀城――」
夏彦は、彼女の脇をすり抜け車内に入る。
恐らく、警備員がもう一人、二人いるだろうと見当を付けて車内を見渡すと
「――戦闘は、無理か……」
ファーストエイドキットに入っている止血帯を左上腕部とその反対側の肩に巻いた男性警備員が一人、貨物室と夏彦が今いる警備員待機室を隔てる隔壁に寄りかかって低く呻いていた。
こうなれば、腹を括るしかない。
「多賀城、応援がすぐ来る筈だから、それまで俺とおまえで食い止めるんだ。おまえの技って
確か、電波輻射を使うんだったよな?」
多賀城ほのかと名乗った小柄な少女は、小首を傾げてぼんやりと夏彦を見つめていたが、やがてびっくりしたようにふるふると首を振った。
「私の『電波輻射』は、主に電波探知や通信を妨害するための物です。攻撃なんて……」
「な、なに……」
「ご、ご、ごめんなさい。うう……だから引き受けるの嫌だったんですよぅ。はにゅん」
夏彦は、思わず強化ジェラルミン製の薄暗い天井を仰いだ。
この少女は、実戦経験の有無以前にそもそも攻撃能力を持っていないらしい。
(なるほどな……)
と、夏彦は心中ひとり頷いた。
要するに、これまでにこの近辺を襲っていた通信妨害の発信元は彼女であり、その目的は、襲撃者の連携を阻害する事による応援部隊が到着するまでの時間稼ぎ。彼女自身が襲撃者を追い払う事など初めから期待されていないのだ。
だが、それはつまり、護衛対象が増えただけという事でもある。
うーむ、と呻きつつ歯噛みする夏彦に、ほのかは申し訳なさそうに唇を噛んだ。
だが、夏彦には、彼女を責める気は毛頭ない。
そもそも、悪いのは、適材適所の原則を無視して無理な作戦を立案し、彼女にこの仕事を押し付けた事務局管理中隊なのだ。
ドンッ、という至近距離への着弾とともにバンが大きく揺れた。
「ともかく、俺は、なんとか敵を引き付け、隙を見て――」
腰から吊るした軍刀をぽんぽんと叩いてみせた。
「近接戦闘に持ち込む。もちろん、多勢に無勢だからいつまでも持たないだろう。多賀城、おまえは――――」
そこまで言いかけて、夏彦は慄然とした。ほのかの頭上を越えて車の前方へ向っていた夏彦の視線の先で、あり得ない事が起きていたのだ。
車体の真ん中に位置する貨物室とその後方の警備員待機室を隔てる隔壁に取り付けられた非常用ハッチ。
それが開いているのである。
この車の貨物室の扉は、車体側面のスライドドアと警備員待機室を隔てる隔壁に取り付けられたハッチの二つで、スライドドアは車外からと貨物室内側から、そして隔壁の物は、貨物室側からのみ開ける事が出来るようになっている。つまり、内容はどうあれ通常の物資の運搬を行っている限り、警備にあたる隊員がこちら側、警備員待機室側からこの扉を開ける事は無いし、そもそも開けられるようになっていない。
(――貨物室側から開けたのか?)
一体、この護送車列は何を守っていたのか、などと考える時間すらなく、その対象は遠慮がちに扉を潜って現れた。
それは、薄い水色のワンピースを纏った中学生くらいの一人の少女。
「ウソだろう…………」
言葉を失い、ただ瞠目する事しか出来ない夏彦に向って少女は何も言わず、じっと静かに佇んでいる。
その顔、その表情、そのまなざし……。
夏彦は、絶句しつつも確信せざるを得なかった。
少女は、三年前のあの日、園田大尉と共に死んだ戦略生体兵器『さくら』だった。




