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冷たい夜の大気を引き裂いて手近な車のルーフを石跳びの要領で次々と跳躍して行く。
ほどなく、護送車列の丁度左後方に位置する除染業者の大型トレーラーの荷台に着地した。
この位置からは、護送車列と襲撃者のやり取りが手に取るようによく見える。助手席やサンルーフから身を乗り出し小銃やサブマシンガンで攻撃する襲撃者相手に、パシフィク・サーバント側も、小銃や拳銃で応戦している。
そして、案の定、この車列には、戦術生体兵器が護衛として付けられているようだ。
護送車列には、その規模に関わらず、必ず護衛として一人以上の戦術生体兵器か機械化人間兵器を付けるよう規則で定められている。護衛されているバンのルーフハッチから時折顔を覘かせているのがそうだろう。
夏彦はその顔に見覚えがあった。
一学年下の第一級戦術生体兵器である女子生徒だ。少女は、揺れ動くバンのルーフハッチにしがみ付くようにして後方の様子を窺っては、弾が掠めたのか、時折、ビクッと肩をすくませ慌てて頭を引っ込めたりしている。
それにしても……
と、夏彦は、一人心の中で呟いた。
(こうして傍から見ると、確かに妙なもんだな。無論、人の事は言えないが……)
と、目の前の光景に夏彦は内心苦笑する。
何が?
とは――大人の警備陣に混じる夏彦自身を含めた少年少女の存在である。
人類は、その創世の頃から戦争に明け暮れていたと言うが、現在のように少年少女が当たり前に一つの戦力として機能しているこの状態はここ百年ほどのことらしい。
だが、それは民間軍事会社だけでなく、国防軍、国家警察軍、特別高等警察でも同じであるし、それら以外の民間部門にも今後は広がって行くに違いない。ひと頃、人権活動家や社会運動家が随分批判し、禁止する為の国際憲章も作られたが、それでも決して変わる事は無かったし、これからも変わる事はないだろう。
なぜなら――
戦術生体兵器に大人はいない。
唯一の例外は、夏彦の知る限り園田大尉一人だけだ。
と言うのも戦術生体兵器になる為に必要な「脳改造外科手術」の成功率が大人と子供では極端に異なり、しかも、その結果得られる能力のピークが二十歳前後までと短いためだ。
その上、戦術生体兵器に対抗して大人でも使用できるよう (と言っても、こちらも適正はやはり成長期の子供の方が優れているのだが)開発された機械装具体内埋設手術――機械化人間兵器が戦術生体兵器ほどのバリエーションと攻撃威力が無く、あくまで個々人の肉体的特性や個性によって威力や能力にばらつきが出てしまう戦術生体兵器を補完する一種の量産兵器でしかないという事実がこの傾向に拍車を掛けている。
世界は、戦術生体兵器である子供達無しでは国内、国外の治安を守る事が出来ず、その発展形である戦略生体兵器抜きでは、その均衡を守る事が出来なくなってしまったのだ。
これが、二十一世紀初頭に開発された人間が兵器になるという革新的技術とその後に起きた第三次世界大戦などの幾多の戦争のよってもたらされた新たな世界の形。各国が世界的な批判を無視し、過去から現在に至るまで戦場へ少年兵を動員し続けている理由である。
と、同時に夏彦に仕事が斡旋される理由でもある。
(ふむ……)
取りとめない思考に身を委ねつつも警備陣と襲撃者の攻防を仔細に眺めて、夏彦は胸を過ぎったある疑問に首を捻る。
――どうして、この案件を事務局管理中隊は俺に振らなかったんだろう?




