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夏音の操る深紅の蒸気バイクは、風を縫って高速道路を疾走して行く。
響き渡るエンジンと風の音に負けじと夏音が叫んだ。
「ラッシュで混み合う一般道を避けて高速道路って超すてき! 一般道で渋滞してたのがバカみたい。さすが、夏彦くん! 夏音さんはそんな夏彦くんにメロメロだよっ!!」
「…………悪い! 音がうるさくて聞こえない!!」
「もぉぉぉぉ! いけずぅぅぅぅ!!」
夏音は、すっかりいつもの調子を取り戻したらしい。
バイクを巧みに操るその瞳がきらきらと輝き、疾走する風の中で彼女は輝いているようだった。
そんな夏音の横顔を夏彦は、ぼんやりと、だが一心に見つめていた。
夏音のこんな顔を見たいから、夏音を幸せにしてやりたいから、今のこの生き方を選んだ。
これが恋愛感情なのかどうなのか、今の夏彦には分からない。
エマに対する気持ちもやはり同様だ。
だが、それでも……量子ラジオから無線へ転送された終戦放送を聞いたあの瞬間、これからはこの二人を守って生きていきたいと願ったその想いに一片の迷いもない。
そして、今その一人である夏音が傍で笑ってくれている。
まだ少し冷たさを残すこの季節の夜風に吹かれながら夏彦は思う。
――――俺は、幸せだ。
「夏彦くん!」
うん? と我に返って返事をすると夏音が「見て」と前方を指差した。
さっき、二人を追い抜いて行った除染業者の大型トレーラーの助手席から鉢巻き姿の作業員が身を乗り出して緊急信号灯を点滅させていた。それは化学汚染地帯の除染に携わる作業員達が防護服の腰に無線機と一緒にぶら下げているもので、もちろん街中で使うような物ではない。第一、彼らのトラックには、車両無線が搭載されている筈であり、現に、前を行く件のトラックも車両用無線搭載車の証である大きなアンテナが車体上部で風に揺れている。
「なんだろう? 夏彦くん」
前方のトラックは、なおも緊急信号灯を点滅させている。信号が明滅する方向、二人のバイクの後方へ夏彦が視線を転ずると、後方にいるトレーラー達もそれぞれに信号灯を明滅させている。大型トレーラーのヘッドライトが奏でる光の静寂を破って明滅し続ける小さな信号達のさえずり。それは、収まるどころか時間が立つほど増えていく一方だ。
ふと思い付いて、夏彦は、側車の中の収納を開き量子無線機を引っ張り出す。足元にばらばらと音響手榴弾などの武器が入った雑嚢や工具がこぼれ落ちるのも構わず、夏彦は量子無線機の周波数を合わせた。
…………。
もう一度。
………………。
雑音。
量子無線機は、このバイクを買った際にジャンク屋の親父がおまけでくれた軍用無線機だ。二世代前の物とはいえ、民間の物とはその精度、性能は比べ物にならない。
――――それが、全く繋がらない。
(……通信妨害か!)




