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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
14/133

[14] 

「ぐっ……」


「夏彦くん!!」



 アスファルトの路面に片膝を着いて呻きだした夏彦に夏音(かおん)が慌てて駆け寄った。

 懸命に背中を擦り介抱する夏音の声が遠くの方で聞こえ、高鳴り続ける自身の鼓動で胸が詰まり、目の前が真っ暗になりそうになる。

 夏彦は、湧き上がって来る感傷の嵐を飲込み、必死で耐えた。握り締めた拳は震え続け、腹の底から湧き上がって来る狂おしい程の想いが、なおも執拗に夏彦の体の中を吹き荒んでいる。

 

 常人の感情表現を持たない今の夏彦にとって園田大尉やかつての仲間達、そして言葉をろくに交わす事も無く死んでいったあの戦略生体兵器の少女との思い出は、精神的にだけでなく肉体的にも酷なのだ。


 夏彦は、制服の内ポケットから名刺サイズの通常時携帯用ファーストエイドキットを取り出した。ふたを開けようと指を掛けたが、指先が小刻みに震えてしまって、ひどく開けづらい。夏彦は、なんとかふたをこじ開けると、中に入っていたピンク色の小さなプラスチック容器を取り出し、中身を一滴舌の上に垂らして呑み下した。そして、目を閉じると薬の容器を握り締めたまま意識してゆっくりと呼吸する。

 握り締めた手の内側や、首筋に浮かんでくる冷たい汗の感触に苛まれつつ夏彦は、しばし待った。経験上、しばらくすれば薬が効いて来る筈だ。それまでは、耐えるしかない。

 


 数分の後……鎮静剤が効き始め、ようやく落ち着いた。


 

 夏彦は、しばらく息を整えた後、背中を擦り続けてくれていた夏音に、まだ若干青ざめつつではあるが、もう大丈夫だと告げ頷いてみせた。

 夏音は瞳にうっすらと涙を浮かべながら頭を下げた。



「ごめんね、夏彦くん……。本当にごめんね。無神経だよね。無神経すぎるよね……。夏音さん、夏彦くんのこと何にも分かって無いんだよね。だから、こんな馬鹿なこと平気で言って夏彦くんのこと傷付けちゃうんだよね。――夏音さん、本当に馬鹿だ。嫌になっちゃうね」


「夏音…………」



 夏音は、震える手でヘルメット被るとイグニッションを回した。何度かエンジンキーを捻った後、生き返ったように甲高いエンジン音が轟き、車体が辺りを睥睨するように戦慄(わなな)いた。

車体を揺さぶる蒸気(スチーム)エンジン特有の甲高い音が、鎮静剤の効力で内側から冷え切った夏彦の体の底を揺さぶるように響き、その鼓動は、ざわめく心の上を風のように凪いで行く。


(まだ、慣れないな。もう、四年近く経つと言うのにな……)


 完全に平静を取り戻した夏彦は、そっと横目で夏音を見つめ、小さなため息を吐いた。あの状態になった夏彦の事を、夏音は、これまでに何度となく見て来ている。だが、今回のように彼女自身がその引き金になる事は滅多にないと言っていい。

 俯き加減で涙を堪える夏音に、夏彦は前を見つめたまま言葉を紡ぐ。彼女の過剰なまでのやさしさは、傍で見ている夏彦、そしてエマの二人が誰よりもよく知っている。

今の状態の夏音を放っておくことなど彼には出来なかった。

 

 夏音――と、夏彦は、静かに彼女に話しかけた。



「いつも面倒ばかりで……すまない。今日も今日とてこのザマだ。面目ない」


「そんな……。だって、それは夏音さんが――」


「いいや。きっかけなんてどこにだって転がってるさ。問題なのは、それに対する俺の在り様の方だ。絶対に夏音のせいじゃない。誓ってもいい」


「夏彦くん……」


「もう帰ろう、夏音。今日は、遅くなったから高速を使おう。久しぶりに見せてくれよ、夏音さん自慢のライディングテクニックを。な?」


「……うん。……ありがと、夏彦くん」



 夏音は、袖で顔をそっと拭うとバイクを発進させた。


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