[131] 終章
「夏音ちゃーん」
手を振り返すさやかの視線の先にいるのは六人。
夏音、エマ、ほのか、アレクセイ。
そして、
「おーい、二人とも早く来たまえ」
黒のスーツ姿に小さな花束を手に持った三枝医師。
と――
「櫻子ちゃんもすっかりあの恰好が板についたね」
と、感慨深げに呟いたさやかの視線の先にいるのは、中央軍事学院中等部の制服に身を包んだ藤村櫻子。
戦略生体兵器『さくら』改め、
第一級戦術生体兵器『百花繚乱』。
さくらの新しい身分であり、新たなスタート。
三枝医師が身元保証人となり、漆原海軍卿の後押しで実現した処置だ。
もっとも、さすがに戦略生体兵器であることは極秘であり、表向きは第一級戦術生体兵器として通すことになっている。
少々の束縛はあるものの、概ね夏彦をはじめとする皆とさくら自身の希望通りの落としどころと言っていいだろう。
なにより、これからの見通しがはっきりしたことで、櫻子の表情も随分と明るくなり、年代相応の少女の表情を見せてくれるようになった。
その櫻子がさやかの元へと走り寄って来る。
彼女と共に皆の元に着くとエマが、さやかににっこりと微笑みかけた。
「さやか先輩、ここからまだ少し距離があるけど、どうしますか?」
「うん、そうね……せっかくだから歩こうかな」
よいしょっ、とさやかは車いすから立ち上がる。
すかさず、エマがその手を取った。
「ありがとう、エマ」
「どういたしまして。じゃあ――」
「うん」
エマに手を引かれたさやかの足取りに合わせて一同はゆっくりと目的地へ向けて歩き出す。
芝生に覆われた広大な敷地の中をレンガで舗装された小道がゆっくりと弧を描くように一同の視線の先に延びている。
芝の上では、園芸ユニットを背負った機械化召使が芝生の手入れに余念がない。
青々とした芝が風に揺れている。
清廉で、静かな空気が辺り一帯を覆っていた。
そんな敷地の様子を横目に五分ほど歩いた先にあるのが今日の目的地。
『第八十五国立戦没者墓苑』
関東一円の特に千葉県出身の戦没者、そして戦術生体兵器が葬られている墓苑。
入口の格子状の鉄柵の前に立った夏彦は、胸の中でつぶやいた。
(大尉、ご無沙汰してすいませんでした)




