[130] 終章
「具合は、どうですか?」
「うん。もう大丈夫なんだけど、迫田さんが、せめて今日までは車いすを使いなさいって……。エマの方は、あれからどう?」
「ええ、すっかり元通りです。今日も朝から、夏音とほのかと三人で弁当作ってましたから」
「もしかして、ほのかちゃん泊りがけ? アレクセイくんも?」
「ええ。ほのかの方は、昨日の八時ごろでアレクセイは飯時……だったかな。ほのかは、実家で売ってるって言うメロンパンとブンタにやるんだって野菜の切れ端たくさん持って来ましたよ。で、ガールズトークだって言って夜通し……。アレクセイは、飯食ったらもうブンタと一緒にイビキ掻いてました。櫻子は、今日来れそうですか?」
「うん。海軍病院で検査結果を聞いた足でこっちに来るって言ってたよ。漆原さんが、送ってくれるっていう話だから、もうみんなに合流してるかも」
青葉の繁る木々の下を夏彦は、さやかを乗せた車いすを押しながらゆっくりとレンガで舗装された小道を進んでいる。
今日の夏彦は、国防陸軍の制服姿。
一方のさやかは中央軍事学院の制服を着ている。
パシフィック・サーバント本社棟屋上での決闘から一週間が経っていた。
いや、まだ一週間と言うべきか。
あの時の事は、夏彦の脳裏に鮮明に焼き付いている。
最後の最後。
その瞬間に発揮された夏彦本来の能力。
『音速斬撃』
園田大尉の死後、封印したかのように使うことの出来なくなった本来の力。
その力を、あの瞬間、大尉の死後数年ぶりに使った。
無我夢中だった。
しかし、一か八かと言うものでは無かった。
あの瞬間、今の自分にはそれが出来るはずだという小さな確信があった。
大尉の死によって見失ってしまっていた本当の意味での夏彦の戦う意味。
その言葉自体は、夏彦は口にもしていたし、心の中でも常に思っていた事であった。
『大切なものを守りたい』
だが、それは表面上の事。
心の奥底から実感として、肌感覚として自分が納得しているものでないことにあの時、夏彦は初めて気が付いたのだった。
言うなれば、自分を納得させるために、自分を説得するために呟いていた呪文に過ぎなかったものだったと気が付いたのだ。
本当はどうなのか? と自身が自身に対して密かに抱き続けて来た疑問。
それを初めて客観的に見た瞬間だった。
初めて自分というものに対して向き合った瞬間だった。
だが――
だがそれは、それが決して呪文では無く、自分の真実なのだと改めて気が付いた瞬間でもあったのだった。
そして、その事を教えてくれたのが、目の前の車いすに腰掛ける少女。
誉さやか
夏彦とエマの所属する中央軍事学院生徒隊隊長であり、
園田あかり大尉の実の妹であり、
尊敬すべき先輩。
新しい仲間だ。
と、小道の向こう側で数人の人影が見えた。
一人が飛び上がって手を振っている。
さやかが、小さく手を振り返し、先方も声をあげた。
「夏彦くーん、さやかさーん」




