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夏彦は、身を翻し、床の電磁軍刀を拾うと素早く下がって構える。
(やはり、一筋縄ではいかないか…………)
目じりに小さな涙を溜めながら不敵な笑みを浮かべる目の前の敵に夏彦は戦慄する。
並みの戦術生体兵器なら、とっくに倒れて戦闘不能であろう筈の攻撃も、彼女には少々痛いという程度の事であるらしい。
それでも、少しは効いているのか、さやかはしきりに脇腹を摩っている。
だが、あれだけ攻撃を加えてその程度なのだ。
この状況が長引けば、体に機械装具を入れていない夏彦のスタミナでは持たない。
なにせ、常に全力で動かなければいけないのだ。
今のままでいくと、闘えるのはあと十分もあるかないか……どちらにしても夏彦には不利だ。
ならば、どうするか――。
結論は、分かり切っている。
必要なのは、ただ一つ。
たった一つの技。
かつてエマを、仲間を、園田大尉を守り、夏彦自身をいくつもの苦難から救ってくれた技。
音速斬撃
それを撃たない限り――誉さやかは斃せない。
どうすれば撃てるのか。
(考えろ……考えろ……)
軍刀を構えたまま、懸命に考えようとする夏彦にさやかが再び声を掛けた。
「強いね、夏彦」
「……さやか先輩が言いますか?」
「うん。だって――」
と、さやかは、チラリと『さくら』へ視線を向けた。
「必殺技が撃てないこの状況でも、夏彦は、みんなを守ろうと一生懸命なんだもん。エマが一人で戦いに来た理由が今の私には、すごくよく分かるよ」
「……エマとそんな話を?」
「うん。あの日ちょっとだけね。でも、エマが無事で本当によかった。エマ強かったから手加減できなくて……」
「………………」
「バカみたい、って思ったでしょ?」
「いいえ――」
夏彦は、額に汗を浮かべつつ目の前の少女の瞳を見つめた。
そして夏彦は、自分が感じていることが間違いないことを確信した。
さやかの瞳には、静かな闘志は感じられるが敵を倒そうという気迫は、まったくと言っていいほど感じられない。
全く純粋な敬意とやさしさのみがそこには浮かんでいた。
もし、それが確かなら――。
この人は、いったい――。
「さやか先輩。あなたは、何のために俺と闘ってるんですか?」




