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三十三階。
パシフィック・サーバント本社棟屋上ヘリポート。
周囲を遮る物の無いその場所で、渦を巻いて吹き抜けて行く風の中を二人は向かい合って立っていた。
二人の間の距離は、およそ四メートル。
二人の間に立つ白い海軍制服姿の背の高い男性が宣言するように言った。
鈴木中佐だった。
「これより、中央軍事学院生徒隊長誉さやかと日本国防陸軍予備役少尉篠塚夏彦の決闘を行う。立ち合いは、不肖海軍中佐鈴木守。そして――」
と、鈴木中佐は、背後の人物を振り返った。
最高位の金一色の肩章と胸元に第一級金鵄勲章を付けた海軍卿が大きく頷いた。
「海軍卿であられる海軍大将漆原直道閣下のご臨席を賜ります」
「誉さん、篠塚くん――」
一歩前に歩を進めた漆原海軍卿が向かい合う二人に向けて言った。
「君たちの話は、それぞれに聞いた。互いに互いに対して思う事があると思う。それゆえに、誉さんは決闘を申し込み、篠塚くんは受けたのだろう。存分にやり給え。悔いの残らぬよう、全力で」
漆原海軍卿は、そう言い終わると口を一文字に結び離れた所へと下がった。
陸戦隊の隊員がすかさず折り畳み式のイスを持って来たが、海軍卿は小さく首を振り、その場に姿勢よく佇んでいた。
「では、双方準備は良いか?」
「……はい」
「はい、大丈夫です」
夏彦とさやかは、それぞれ互いを見つめたまま、短く答えた。
「夏彦!」
「夏彦先輩!」
「さやか姉!」
少し離れた所で固唾を呑んで見守っていたアレクセイとほのかが、夏彦に精いっぱいの声援を送る。
夏彦は、二人に対してこっくりと頷き、次いで彼ら二人の傍らに立つ少女に目だけ動かして視線を送る。
(まさか、喋れるとはな……)
アレクセイとほのかの隣に立つ『さくら』こと櫻子。
園田大尉がその命と引き換えに守った少女。
ほのかに話しかけられ恥ずかしそうに応じる彼女を見ていると、目の前のさやかと目があった。
澄んだ瞳が、静かに闘志を燃やしていた。
互いの目が、語り合う。
(さくらに色々聞かなきゃいけないことがありそうですね)
(そうね。さくらちゃんの事、あなたとエマ、それにあそこにいる仲間の人たちに話さなきゃいけない事がいっぱいあるの。でも、今一番大事なのは――)
(ええ、この決闘)
(そう、この決闘)
夏彦は、視線を目の前の人物に戻し気力を充溢させるべく、深呼吸する。
さやかの方もじっと夏彦の顔を見つめ、凛とした闘気を放ち続けていた。
準備は、整った。
その時、鈴木中佐の手が、すっと上がった。
「始め!」




