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「こりゃぁ――」
すげぇや、とアレクセイが背後で感嘆の声を上げ、その傍らのほのかが「はにゅん……」と息を呑むのが聞こえた。
本社棟三十一階役員専用区画。
その存在をうわさには聞いてはいたが、入ったのは初めてだった。
豪華な内装と広々とした室内。
部屋一面を覆う大きな窓からは、遠く東京エリアまで見渡せる。
だが、ゆっくりと見物している訳にはいかなかった。
「漆原閣下がおられるのは、この先です」
皆の先頭に立った鈴木中佐が、部屋の奥の扉を手で示した。
厚手のカーペットの敷かれた床を踏みしめ、一行が向かうのは待合室の奥。
役員専用会議室。
「閣下。篠塚少尉をお連れいたしました」
「おお。入り給え」
中からの声と共に扉がゆっくりと中へ向かって左右に開かれた。
オーク材で作られた分厚い扉を潜るとそこには
「漆原大佐――」
最高位である海軍大将の肩章を付けた白い軍服姿の男性が立っていた。
「久しぶりだね、篠塚伍長。いや、今は少尉だね。立派になった」
「大佐こそ」
おいおい、と二人の会話を背後で見ていたアレクセイが夏彦の袖を引く。
(おまえさん、海軍卿と知り合いなのかぇ?)
(ああ。大阪にいた頃にちょっとな。まさか、海軍卿になるとは、思わなかったけどな……)
(はにゅん! そんな偉い人とお友達なんてスゴイです!)
「まあ、せっかく来てくれたのになんなんだが……篠塚少尉」
「?」
「櫻子さ――いや、すまない。戦略生体兵器『さくら』についてなんだが……」
漆原海軍卿の口から出た単語に三人は、俄かに色めきだった。
海軍卿は、目じりに笑みを称えつつ、天井を指さした。
「まあ、色々あって今はこの通り、パシフィック・サーバント社本社設備は、海軍の制圧下にある。もちろん、『さくら』も海軍の制圧下にある。
で、結論から言うと、海軍としては、すぐにでも彼女を君に引き渡したいと思っているんだよ。詳しい事は、おいおい話すが、すでに海軍は戦略生体兵器『さくら』を保有すると決めているからね。
あとは、日常においてどうやって運用していくかという点を詰めるだけなんだ。ただ――」
「ただ、なんなんですかぃ? この後に及んで『さくら』の嬢ちゃんをイジメるとあっちゃぁ――」
海軍卿相手に身を乗り出すアレクセイを制して夏彦は、海軍卿に言葉の続きを促した。
ふむ、と頷いて、海軍卿は天を仰いだ。
「誉さやか生徒隊長がね、言うのだよ」
『さくら』を返してほしければ――。
「はにゅん! もう、私たちに怖いものはありません。何なりと仰って下さいっ!」
「おうよ! 首を洗って待っていやがれってぇんだ、べらぼうめ!」
「……大佐。誉先輩は、何と?」
海軍卿は、静かに微笑んだ。
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さやかは、その手に櫻子を抱き締めながら海軍卿へ言った。
「彼へ伝えて下さい」
――私と闘って、夏彦。




