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パシフィック・サーバント――。
ついに出て来たその名前に一層真剣味を帯びた表情を浮かべた二人の少女に漆原海軍卿は、悲しげに苦笑してみせた。
「馬鹿どもの足元を見透かして、彼らが売り込んで来たんだよ。パシフィック・サーバントを利用すれば、口うるさい上層部――私のことだよ、失敬な――に秘密で海軍も戦略生体兵器を保有できますよ、とね。つまりだね――」
「海軍が直接保有する代わりに――」
「パシフィック・サーバントが保有して――」
「そう。そして、必要な時に海軍の命令を受け使用する。方法としては、うまい手さ」
もっとも、発想そのものは、中学生なみだがね。
(さやか姉……)
(………………)
最後に吐き捨てるように言った漆原海軍卿のセリフ――「中学生なみ」。
全くその通りだと、さやかは、思った。
本来であれば、国家戦略という大きな枠組みの中で決められるべき事を彼らは、自分たち海軍の都合と感情で決めようとしている。
当然いろいろ主張は、あるだろう。
なにより、彼らの言う、国を守るという観点から見れば、戦略生体兵器の最低限の保有は、当然なされるべきだろうし、今の国際関係を見れば、そう遠くない未来に海軍においても保有する可能性は決して少なくない。
でも――
(それを、パシフィック・サーバントに捕らわれの身になっていた櫻子ちゃんに――)
手軽な気持ちで、
安易な発想で、
その事がもたらすであろう結果をロクに考えもせず、
ただただ、海軍の一部の高級幹部と一企業の勝手な都合で、
そしてなにより、
(そこに櫻子ちゃんの意思は、一切介在していない……)
――櫻子ちゃんは、あくまで『戦略生体兵器』。
彼らにとって『モノ』に過ぎない。
「ひどすぎます、あんまりです!」
声を震わせたさやかに漆原海軍卿は、やさしく微笑んだ。
「私もそう思う。そして――」
だからこそ、とデスクに両の肘をつき顔の前で手を組んだ。
「私は、彼らの話に率先して乗ったのさ」
「閣下がご自身で――」
「進んで――」
思わず目を見張ったさやかと櫻子の言葉を引き継ぐように漆原海軍卿は、大きく頷いた。
「そう。先手を取るためにね。彼らが勝手な事をする前に、海軍の基本方針の俎上に載せてしまい――まあ、実際に保有するかどうかは、政府の上の方の判断次第だったんだがね――で、私の監督下に置く、と。そうすれば――」
――勝手な事は、できない。
「はずだった」
漆原海軍卿は、大きなため息を吐き、力なく微笑んだ。
「だがね、甘かった。櫻子さんを売り込んだパシフィック・サーバントの方が、私たちより一枚も二枚も上手だったのだよ」
「「?」」
「だまされたんだよ。パシフィック・サーバントは、私たちだけじゃなく――」
――敵である大陸国側へも櫻子さんを、戦略生体兵器『さくら』を売り込んでいたんだよ。




