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国防海軍情報部次席参謀。
海軍中佐鈴木守。
それが、目の前にいるスーツ姿の男の正体であり、当人が告げた名前と階級と所属が本物であることは、後方に控えていた本田直子によってすぐに確認された。
その鈴木を筆頭に、夏彦、ほのか、アレクセイ、そして海軍陸戦隊の隊員二名の都合六名がパシフィック・サーバントの役員達のオフィスのある三十一階を目指して今、このエレベーターに乗っている。
四畳ほどの広さの豪奢な作りの役員専用エレベーターが音もなく上昇を続けていた。
なぜ、海軍がここにいるのか?
この海軍情報部の鈴木中佐とは、いったい何者なのか?
何のために夏彦達の所へ来たのか?
直子も、鈴木中佐が現れた当初は、何が起きたのか分からなかったらしい。無線の向こうで狼狽した声を上げていたが、すぐに特別高等警察の上層部に確認するとだけ言って無線が切れた。
彼女が詳細を確認する間、およそ二十分。
二十分後、直子は無線越しにくたびれ果てた声で言った。
『あんの、タヌキ親父……いつかギャフンと言わせてやるんだから! ――って、ごめんね。時間が掛かったけど確認が取れたわ。もうこの件については、特別高等警察と国防海軍、それに政府の上層部で話が着いてるみたい。で、篠塚くんは、国府田くんと多賀城さんを連れて本社棟三十一階に向かって。そこで今後の詳細についてある人物から直接話があるんだって』
「さくらは、どうなるんですか? 話が着いてるって、さくらの今後についての事ですよね? ある人物って誰なんですか?」
『その人が、今回の黒幕みたい。でも、その人は、さくらを悪いようにはしない、って言ってるらしいんだけど……。私も詳しいことは、全然。ごめんね』
「はあ……。で、その人の名前は?」
『連合艦隊司令長官、漆原直道海軍卿――』
「マジか……」
「はにゅん……」
直子からの無線を聞いていたアレクセイとほのかが、ほぼ同時に声を上げるのが背後から聞こえた。
気持ちは、夏彦とて同じである。
(うわさ通り……やはり、裏にあの大物が潜んでいたか)
それにしても海軍卿が直接現れようとは……。
夏彦は、ため息を吐きたいのを堪えて、了解の旨を無線の向こう側の直子と目の前で成り行きを見守っていた鈴木中佐に対して伝えた。
もう、ここまで来たのだ。
なるようにしかならないし、
もし、それが満足のいかないものであるならば――
(俺は、戦術生体兵器。戦うまでの事だ)
と――胸の内でこれまでの事を反芻していた夏彦の耳に「チンッ!」というベルの音が響いた。
エレベーターが目的地に到着した音だった。
目の前の扉が音もなく左右に開く。
目の前の鈴木中佐が、「こちらへ」と手で示す。
(大尉……さくら……エマ……)
夏彦は、大きく息を吸い込んだ。
そして――
直子の告げた件の人物に会うために、
そして、最後の決着を着けるために、
夏彦達は、パシフィック・サーバント本社棟三十一階役員専用区画へと足を踏み入れた。




