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夏彦の背後で、ほのかとアレクセイが半ば呻くような声を上げ、他の特戦隊の隊員達も各々武器を構えたまま所在投げに顔を見合わせる。
目の前に広がるのは、本社棟のオフィス階という事なのだが――実質、そこは戦場だった。
否、現在進行形での戦闘が行われているという意味ではない。
かつて、少なくとも三十分くらい前まで戦闘が行われていたらしい場所だった。
破壊しつくされたオフィスとその通路や床に転がる無数の遺体。
斃れている遺体は、その黒い戦闘服と装備、そして腕に付けられた部隊章から、パシフィック・サーバントの社内の治安を守る特殊部隊、通称『特務小隊』の隊員のもののようだ。
床に倒れている遺体は、ほぼ全て彼らのものらしい。
部隊は、慎重に室内を進んで行く。
夏彦は、背後の二人にハンドシグナルで援護を依頼し、手近な遺体に歩み寄る。
足元に転がる特務小隊の隊員は、すでにこと切れているのか身じろぎ一つしない。
(どういう事だ?)
夏彦は、顔を上げ周囲を見渡した。
弾痕だらけのデスクなどのオフィス家具に床一面に散らばったガラスや有機EL照明の破片。
そして、おびただしい量の空薬きょう……。
一体、特務小隊は、誰と戦っていたのか?
遺体の状況から考えて、相手も銃火器を装備した部隊であったのは間違いないのだが……。
だが、だとすると――
「まさか、同士討ちかぇ?」
「でも、それだったら、敵味方みたいに斃れてるはずですよね……」
うーん……。
一様に首を捻るに一同に対して、答えは意外なところから返って来た。
突然、特戦隊の指揮官の警告が耳元のイヤホンに響き、隊員達が一斉に銃を構える。
夏彦とほのか、そしてアレクセイの三人は、手近なデスクを盾代わりにして銃の向けられた先を窺った。
そこに立っていたのは、一人の男。
高級そうなスーツを着込み、どこかプラスチックを思わせる端正な顔立ちをしたその男は、
一同に向けて両手を上げて敵意の無いことと武器を所持していないことを見せつつ、こう告げた。
「私は、国防海軍情報部次席参謀の鈴木だ。諸君は、すでに我が横須賀海軍特別陸戦隊の二個大隊によって完全に包囲されている――いや、早まらないでくれ。我々には、諸君に敵対する意思は無い――」
鈴木と名乗った男は、なおも両手を上げつつ、しばし視線を左右に彷徨わせた後、「ああ!」と小さな声を上げて夏彦達の方へ視線を向けた。
「君が、国防陸軍予備役少尉『音速斬撃』の篠塚夏彦くんだね?」




