[11]
「あの……それは、私の学校のせいなんです」
「やはり、そうか」
「先生は、どちらのご出身ですか?」
「私は、岸辺野――茨城県の第二岸辺野市。まあ、地名を言っても分からないだろうけど……。この近隣にある化学汚染地帯を遥かに上回る超化学汚染地帯として一時話題になった第二岸辺野市と言えば分かってもらえるかな」
「あ、あの超化学汚染地帯……」
「分かってもらえたかな」
「…………ごめんなさい!」
慌てて謝罪する夏音に三枝医師は、寂しげに首を振った。
「いいんだよ、気にする事は無い。まあ、それはともかく北葉女学院が、兄妹関係を偽らなければいけない理由なんだね」
「はい。他県の人には、あまりなじみのない学校かもしれませんけど、千葉県では理科教育の先進校として有名なんです。私は、その理科先進クラスの生徒なんです」
「いや、茨城でも君の学校はかなり有名だよ。理科教育先進校は、戦前でこそ五十校以上あったが、現在は北葉女学院ただ一つ。それに、ニュースサイトでもちらっと話題になっていたが今年の東大理科類に合格した女子学生二十五人中二十五人全員が北葉の出身者だったそうだよ。しかも、満点で合格した者が二人いたそうだ。これだけの成果を残せる学校はそうそうあるもんじゃない。多少なりとも理系に興味があれば、その名前ぐらいは知っているさ。それにあの学校は、そもそも理科教育先進校として以上に元々良家の子女の学校として有名さ。現に今の上流階級出身の女の子は、皆あそこに入学しているという話だからね。まあ、だからなんだろう夏彦くん?」
夏彦は、ゆっくりと頷いた。
「ええ。ご想像の通り、あの学校は、本来社会的な地位の高い人達のための学校なので身元保証人が居ないと一般人は入れないんです。それも、社会的に認められている地位にいる三親等以内の親族に限られます。例外は一切ありません」
「第一級金鵄勲章――」
三枝医師は、歌うように呟くと窓の外を見つめた。窓の外には、陰り始めた空の下、焼け焦げた新庁舎の残骸が所々にぽっかりとうつろな口を開けて佇んでいるのが見える。落成した三日後に敵のバンカーバスターによって中にいた人間ごとバーベキューにされたのだ。
三枝医師は椅子から立ち上がると窓に寄りかかるようにして腕を組んだ。




