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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
108/133

[108]


「よくやってくれた、誉君」



 いつも不愛想な事この上ないマクドウェル極東方面本部長が、大きな会議用デスクの向こうで珍しく上機嫌で微笑んでいた。

 そのマクドウェルの隣では、コーガン極東方面警備部長がやはり満足げな笑みをさやかに向けており、さやかの右隣では純白の軍服姿の漆原海軍卿が、今日も今日とて静かに瞑目している。

 そして、部屋の隅に立つ鈴木秘書。

 最初にこの任務を命じられたあの日の顔ぶれが、そこにはあった。

 が、あの日とは、一つだけ異なる点もある。


 櫻子(さくらこ)だ。


 戦略生体兵器『さくら』こと藤村櫻子がさやかの左隣に座っている。

 白いブラウスにひざ丈の淡い桜色のフレアスカート。

 昨日の夜にさやかが選んだものだ。

 今日が、二人が一緒にいられる最後の日。

 そして――

 櫻子を救おうとしていた夏彦とその仲間が退けられた日だ。

 ほんの数時間前、一人で襲撃して来たエマをさやかは圧倒的な力でもって斃した。

 夏彦抜きで彼女が無謀な襲撃を行った理由には、当初からほぼ見当がついていたし、戦いの後エマ自身から直接聞いた。ある程度予想の付いていたことではあったが、実際にエマの口から聞いたその言葉を、さやかは他人事として受け止める事は出来なかった。


(エマ……)


 さやかは、目の前で上機嫌でしゃべる上司二人の会話を聞き流しながら、彼女のことを想った。

 一途に夏彦と仲間の事、そして、櫻子の事を想っていたエマ。

 そのために、さやかと刺し違える覚悟で戦いに臨んだエマ。

 その覚悟がいかに堅かったか――さやかは、戦いの後斃れた彼女をその腕の中に抱きしめて痛感した。 だが、意外だったのは、彼女がその命よりも大切に思っているであろう夏彦やその仲間たちの敵でしかない筈の自分に対して向けている気持ちが、決して敵に対するそれではなかった事だった。

 エマは、大粒の涙を流しながら言った。


(『さくら』の事を――)


 ――お願いします、さやか先輩。

 確かにエマは、そう言ったのだ。

 敵である筈の自分に対して。

 まるでさやかの心の内を見透かすかのように。


 否、違う。


 エマは、きっとその心のどこかで信じてくれていたのだ。さやかの事を。

 そして、戦ってみて確信したに違いない。

 さやかの心が迷っていることを。エマの事を夏彦の事を、その仲間たちの事を傷つけたくないと思っていることを。

 だからこそ――だからこそ、さやかに託したのだ。



 『さくら』の未来を。


 彼女が愛してやまない仲間たちの事を。

 

 この世で最も大切に思っているであろう相棒(パートナー)、篠塚夏彦の事を。

 


 もう、エマとの間に余計な言葉はいらなかった。


(エマ……私がやるよ。私が……私が『さくら』を、櫻子ちゃんを、みんなを守るよ)


 さやかは、キュロットスカートの裾を握りしめ大きく深呼吸する。

 そして、まっすぐに前を見据えてその時を待った。



 その時は、すぐに来た。


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