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「容体は、どうだぇ?」
「落ち着いてる。仕事の方は、よかったのか?」
「なぁに言ってやがるんでぇ。ダチが病院に担ぎ込まれてるってぇその時に仕事もクソもあんめぇよ。気にするねぇ、夏彦」
「すまない、アレクセイ」
そう言って頭を下げた夏彦の肩をアレクセイは、ぐっと握ってやってからベットに横たわるエマの方を見た。
すでに緊急治療室から一般病棟に移されており、命の危険は無い。
治療を担当した医師の説明では、目立って大きなケガも無く、深刻な後遺症の心配も無いとの事で今はこうして皆で彼女の意識が戻るのを待っている状態だ。
ベッドのそばには、エマの手を握る夏音とその傍で、やはり一心にエマを見つめ続けるほのかの姿があった。
朝起きて、エマがいない事に最初に気が付いたのは、ほのかだった。
空になった寝袋。
そして、無くなっていた彼女の装備。
うろたえるほのかとアレクセイを尻目に、夏彦と夏音の二人には、彼女がどこへ向ったかすぐに心当たりが付いた。
実にエマらしいと思った。
が――、
「夏音、ほのか、アレクセイ――」
エマを助けに行こうといきり立つアレクセイをまず彼は止めた。
エマの気持ちが痛いほどに分かっていたからだ。
エマは――
(自分一人を犠牲にする事で俺達を、俺を、夏音を、ほのかを……そして、アレクセイを守ろうとした)
誉さやかさえ、なんとかなれば――それは、間違いなくこの状況を打開するカギだった。
彼女さえなんとか出来れば……。
それに対してエマの出した答えが、「単独での出撃」だったに違いない。
夏彦は、その事をアレクセイとほのか、そしてほぼほぼ夏彦と同じに結論に達しているであろう夏音にも説明し、さらにエマが向ったであろうパシフィック・サーバントの本社への襲撃がその防御の堅牢さゆえに如何に無謀かも説いた。
加えて隣接する中央軍事学院から動員されるであろう生徒達の数が、およそ三千人に達する事。そしてそれが、人員数的には軍の一個連隊に相当する規模であるのに対して戦力的にはその規模を圧倒的に上回ることを説明した。
多数の戦術生体兵器と機械化人間兵器を要している三千人規模の軍事組織。
加えて本社を警備する特殊部隊である『特務小隊』の存在。
パシフィック・サーバント本社とその周辺には、国防軍も国家警察軍も容易には手を出せない規模の戦力が展開しているのだ。
そんな場所へ今から向えば帰り撃ちにされるのは必至であり、当然、エマの気持ちにも反するだろう。
出来る限りの万全の準備を整えつつ、詳細が判明するのを待つ。
「――それからでも遅く無い」
なにより、今はエマの置かれているであろう状況を把握するのが先決だ。
必要ならすぐに救出に向う必要があるし、なによりまだ行き先が百パーセント確定した訳では無いのだ。小さな可能性とは言え、まだ望みはある。
それが、夏彦が下した決断だった。




