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名前と階級、そして戦術生体兵器である事とその能力名から類推しての検索作業は、予想していたよりはるかに簡単に結果が出た。
さやかは、その死から数年後にようやく姉の本当の軍歴を、戦略生体兵器『さくら』を使用した最後の任務以外についてではあるが、詳細に知る事が出来た。
姉が無謀な脳改造外科手術の結果獲得した能力は『絶対防護』。
その概要は、さやかの物とほぼ一緒だ。
全ての攻撃から身を守り、仲間達の楯になる力。
大切な誰かを守るための力。
そんな能力だった。
姉は、小学校の教師であった姉は、いったい誰を守りたかったのだろうか――。
目の前に横たわるエマを見て、さやかは改めて思う。
あの時も、さやかは目の前に空中投影された資料を見て思った事だが、改めて思う。
姉が絶対に守りたかったもの。
それは、そう、目の前に横たわるエマであり、夏彦であり、戦略生体兵器『さくら』こと櫻子だったのではないだろうか。
そして、戦術生体兵器や戦略生体兵器となってあの戦争に身を投じた全ての子供達。
それを姉は、守りたかったのではないだろうか。
そして、目の前に横たわるエマの守りたいもの……。
エマが命を懸けて守りたいもの――。
それは、篠塚夏彦であり、多賀城ほのかやその仲間達。
その人々を守るために、エマは、命を懸けてこの戦いに挑んだのではないだろうか。
なぜ、篠塚夏彦抜きでエマが一人でここに来たのか?
実際、さやかには、ひとつ心当たりがあった。
昔、一緒に任務に当たった上級生の戦術生体兵器が、篠塚夏彦同様に心を病み、学校を去った事があったのだ。これ以上この業界に耐えられないと言う事もあったに違いないが、もっと大きな理由は他にあった。
――彼も、そういう事なのね。
エマ――と、さやかは呟いた。
(エマ……あなたって人は……。そうまでして、彼の事を……仲間の事を……)
さやかは、横たわるエマのそばにしゃがみ込むと、そっとその身を抱き寄せた。油断して反撃されたら、などとケチな事を言うつもりは、もうどこにも無くなっていた。
もし、彼女に反撃されて斃されるなら、もうそれはそれで本望だった。
さやかは、抱きあげたエマの耳元にそっと何事か囁いた。最初、何を言われているのかエマは理解できなかったようだった。しかし、再度ゆっくりとその言葉がさやかの口から紡がれると、彼女の腕に抱かれたエマの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
さやかは、自身の戦闘帽を脱ぎ床に置くと、エマのそれもまたそっと脱がしてやった。
そして――彼女を強く抱き締めた。
もう、誰が見ていてもモニターしていても構わない。
強く抱き締め、その名前を呼び、自身の感情を素直に彼女へ告げた。
今のさやかにもう迷いはない。
ある決意が、彼女の胸に宿っていた。
しばらくそうしてエマを抱き締めた後、さやかは通信ブラウザを開いた。
特務小隊や戦闘指揮所から大量の問い掛けが来ていたが、それを全て無視して、彼女はある場所へ向って呼び掛けた。




