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さやかは、空中で残身を取りつつなおも間断無く攻撃の体勢を取り続ける。
だが、さやかは確信していた。
さやかの攻撃は、完全にエマを捉えていた。
握り締めた拳の先から、エマの体の感触が痛いほどに伝わって来ていたからだ。
そして、彼女がその体に受けたダメージもまた、十分すぎるほどにさやかには、伝わっていた。
(……お願い、決まって!)
エマは、壁に叩きつけられ、声も無く滑り落ちた。
と、同時にさやかも、そっと着地した。
エマが床に沈み、自身が戦闘の主導権を握っても、さやかの視線は、倒れたエマから離れない。
躊躇や迷いも怖いかもしれないが、より怖いのは油断だ、とさやかは身を持って知っている。
もっとも、それを教えてくれたのは、中央軍事学院に入ってから経験した実戦では無い。
それよりも前――名門と呼ばれた女子中学校で同級生に言われの無い陰口をたたかれ続け、傷付けられ続けた日々から身を持って学んだのだ。
そして、ここまで強くなった。
さやかは、湧きあがる全ての感情を押し殺し、エマを見つめ続ける。
彼女の目の前のエマは、うつ伏せに倒れ、小刻みに震えつつ浅い呼吸を繰り返していた。
それにしても――とさやかは、身構えつつ先のエマの攻撃を振り返った。
(『絶対防護』の破り方をまさか――)
大阪攻防戦を生き抜いた戦術生体兵器一般によく言われている事を今更ながらにさやかは、心の中で反芻する。
――彼ら、彼女らは、逆境の中でこそ、その真価を発揮する。
これも、その一種なのかもしれない。
いや、あるいは――
(お姉ちゃんから、聞いてたのかな……)
お姉ちゃんは、教えちゃいそうだからな……さやかは、そっと首を振った。
『絶対防護』の破り方。
言いかえるならば、そのために知らなければいけない弱点。
それは――その防御力が強すぎる事。
その強力さ故に百パーセントの実力を発揮できるのが、ほんの数秒に過ぎない事なのだ。
持続時間――わずか三秒。
その前後の予備動作でも能力は発動されるが、百パーセントの力の時のような万能の防御力を期待する事は難しい。
さやかの姉である園田大尉は、どうやら出力に強弱を付ける事である程度この弱点をカバーできたいたらしいがそれが事実であれどうであれ、現実のさやかの能力ではこれが精一杯。
機械化人間兵器に持たせる事の出来る特殊能力には、やはり限度があったのだ。
そして、限度がある以上、さやかの『絶対防護』を破る方法は、到ってシンプルな物になる。
物理的な攻撃以外 (もちろん、それでも可能だが、より確実を期するために)エマのような遠距離攻撃能力を使用して、まず『絶対防護』を展開させ、間髪入れずに、近接戦闘に持ち込みダメージを与える。
もちろん、自身の持ちうる能力の種類によっては、無数の組み合わせややり方もがあるだろうし、さやかのダメージ次第では繰り返す必要もあるだろうが――持続力の弱い『絶対防護』しか撃てないさやかにそれを早い段階で撃たせ、時間の経過とともに防御力が下がるのを待っての攻撃、という基本のパターンは変わらない。
落ち着いて考えれば子供でも分かるかもしれない容易さだ。




