転生しちゃってました。
目覚めるとそこは青く透き通る海と、白い砂浜に雲ひとつない青空。
波は穏やかで涼しげで再び瞼が落ちそうになったが、じわじわと地面が熱いことに気付く。
暑さに驚き飛び上がってとりあえず足踏みをしながら涼しそうな場所を探す。
てかなんで裸足なんだよ俺は…。
というかそもそもここはどこなんだろうか?。なんか見た感じ沖縄の海みたいなんですけど。
「…どこだよ、ここ」
誰に話すわけでもないが、なんとなく独り言を言う。自分は昔から独り言を言う癖があるようで、それは大体頭の中がごちゃごちゃしている時だ。
というか、なぜここにいるか、だ。
「まああれだな、とりあえず整理してみるか…。暇だし」
ベタなところでここはどこ?私は誰?から始めるとしますか。
まずここはどこかわからない。だが、今いる場所が沖縄っぽいのは確か。まだ沖縄とは断定出来ないが。
次は私は誰?久高凪。出身は沖縄で、高校を卒業し県外の専門学校に行きながらアルバイトをしていた。
気を失う前は確か船に乗っていたのだ。偶然回した福引きであろう事か旅行券を当ててしまったのだ。しかもペアチケットではなく一人用。
なんですか、ぼっちですがなにか?まあぼっちの自分がペアチケットもらってもどうしようもない気持ちになると思うから別にいいけどさ。
なに?友達とかいないのかって?
まあ、高二までは自分にも友達はいると思ってましたけどね…。
「で、なんだっけ…」
ああ、あれだ。で、豪華客船でゆらゆら揺られながらラノべ読んでて気分悪くなったんだ。
ほんとやばかった。うん、やばかった。
自分の部屋出てトイレ行って吐いて外に出て吐いてプールのあるテラス行って吐いたからね。まあプールには吐いてないから安心して。
気分転換しようとそのまま星空を眺めてたら、後ろから突き落とされて溺れて死にました。
あ、自分死んだんだ…え、死んだの?俺。
いや、あれだよ、気を失っただけでどっかに流れ着いたとかだよ、うん。
…でも、バッチリ溺れてた時の記憶が残ってるんだよなぁ。
それに走馬灯?見えたし。え?じゃあやっぱり俺死んだのか。
じゃあここは天国とかそういうのかな?
でもイメージしてるのと違うけどなぁ。
「もしかして、異世界転生?」
うーん、あんまり転生ものは読んでないからわかんないんだよな。ぱっと出てくるのはノーゲ○ムノーライフくらいだ。
というか発想が既におかしいな。ラノベ好きじゃなかったら多分転生したなんて考えないだろうな。
「てか皮膚が痛い」
なんか腕とか足とか真っ赤だし、顔はじんじんするし。
元々引きこもりの俺には大ダメージですよ。
木陰で体育座りをしながら海を眺めていると、視界の端っこに動くものが見えた。それを見ると、その動くものもこちらに向かって歩いてるようだ。
目があまり良くはないため、何かまではわからないのだ。
動き方からするに人の様だ。
というか人であってほしい。
向こうはまだこちらに気付いていない様だ。とりあえず身を隠しそれが通り過ぎるのを待つ。
人だったら声をかけよう。
少しすると俺でも見えるところまで来た。
綺麗な青い髪を揺らし、頭には麦わら帽子を被っている。服装は見た感じは白いワンピースなのだが、なんというか、ファンタジーな感じの服装。
胸元には魚の鱗と真珠で作られたようなネックレスが見えた。
顔は美しく、肌は白く透き通っていた。
表情はどこか楽しげで、耳をすませば鼻歌くらい聞こえそうだ。
可愛いなぁと一瞬見惚れてしまい、声を掛けるのが遅れてしまって慌てて駆け出すと木の根っこに足を引っ掛けてしまい彼女の前に派手に転んでしまった。
俺が砂とキスをしていると「きゃあ!」と可愛い声が聞こえてきた。
声も可愛いなんて最高じゃないですか⁉︎
「あ、あのう…」
立ち上がると彼女は心配と恐怖の入り混じった声を出した。
俺は彼女を見つめて、頭がぼーっとし出してそれから倒れた。
倒れる間際、彼女が「大丈夫ですか⁉︎」と声をかけてくれているが、それも途切れた。
海の音が聞こえる。心地良いBGMだ。
それと声が聞こえる。それもふたつ。ひとつは知っている。けどもうひとつの声は知らない。
「ジン、このお方、大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。水分不足と太陽の暑さにやられていただけだ。…それにしても、こいつはまた珍しい服を着てるな。ここいらのやつではないな」
…珍しい服って、普通にジーンズとTシャツなんだけどな。
とりあえず、だいぶ良くなった。起きて状況を把握しないといけない。
目をゆっくり開けると、先ほどの綺麗な子と頭にタオルのような物を巻いた大柄な男?魚人?がいた。ふたりは俺の身体を舐め回すように観察していた。
「うおっ!」
「なんじゃビックリしたわい!」
「わわっぁ!ビックリした。ジン、脅かさないであげてよ」
「ビックリしたのはわしの方じゃい!」
どうやら俺は彼女に助けられたらしく、この魚人はおそらく彼女の知り合いが何か、海が近いからさっき倒れた場所からそんなに離れてはいないだろう。
第一、彼女では俺を担ぐことは出来ないだろう。出来ればされたかった気もするが。
倒れた俺を助けようとこの魚人を呼んでここまで運んできたというところか。
「あの、助けていただきありがとうございます」
「良かったわ。急に現れて急に倒れてしまうのもだから」
彼女は安心したのか、ほっと息をついた。
なにか申し訳ない気持ちになった。
「それにしてもお前さん、ここのもんじゃないな」
再び俺の身体を観察するジンという魚人。改めてこの魚人を見てみると、とりあえずデカイ。2メートルは超えているだろう。体はがっしりと大きい。皮膚は全体的に青く、ぽつぽつと白い模様がある。
「そうですね。ここは俺が知っている世界とは違うようで。…俺は久高凪といいます」
「クダカ、ナギ。変わったお名前ですね。私はシーナと申します。あなたが無事でなによりです」
この子良い子すぎるでしょ。もうさっそく好きになってしまいそう。
「ありがとう。俺のことはナギと呼んでくれシーナ」
「わかったわ。ナギ」
優しく微笑むシーナはより可愛くて思わず目を逸らした。俺には眩しすぎる。
「わしはジンという。見ての通り魚人族じゃ。シーナは人間族じゃが」
「よろしく、ジン。ところで、いくつか聞きたいことがあるんだが…」
リーファサザン。ここはそういう場所らしい。どうやらこの世界はこのリーファサザンという大陸しかなく、その他はすべて海だという。
要するに俺は完成に異世界転生してしまったのだ。
俺は自分のいた世界のことを話すとジンは酷く驚いていた。
「お前さん、ニライカナイから来たのか⁉︎」
ニライカナイ、それは沖縄で言うところの海の彼方、海の底などと呼ばれている異界のことだ。
この世界ではそれを異世界から来たというような言い方になるそうだ。
もっとも、あくまで伝説のような類の話である。
突然現れた男を助けて自分はニライカナイから来たと言われたらそれは驚くに違いない。
シーナも目を丸くしていて可愛かった。
まだ聞きたい事も山ほどあったが日が暮れてしまい、今日はひとまずここに泊めてくれる事になった。詳しい話はまた明日、ということだ。
3人で食事をし、それぞれ眠りについた。
少し早いのではないかとも思ったのだが、どうやら俺に気を使ってくれているらしい。
まあ確かに疲れはあるので、その方がありがたい。
ベットに横たわり、左手を天井に伸ばす。
手首にはじいちゃんの形見の特殊なミサンガが付いている。
「じいちゃん、一回死んじゃったけど、転生できたよ…」
たぶん、じいちゃんのおかげかもしれない。
じいちゃんの形見を胸に当て眠りについた。