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「ふざけるな! 余は側室にと望んでおるのだぞ!!」
休みであるはずのその日、急に呼ばれて宮殿に行くと、リュリュ様の怒鳴り声が響いていた。
「どうした?」
「へ……陛下が……」
「陛下がどうなされたというのだ? それではどうしようもない」
「商人風情で奥方を陛下の側室に上げるのを拒んでおる馬鹿がおる」
側近の言葉に私は嫌な予感がした。
「アレフィエフ商会の奥方を陛下が御気に召した。それ故、側室へと陛下が頼んでいるにも関わらず、頑なに首を縦に振らぬ。王家御用達の看板を取り上げると言っても、無理なのだ」
先日彼女から聞いたばかりの話が頭をよぎる。ラッセ殿は彼女を守るつもりなのだ。
「しかも、祝言はまだではないか! ならば問題なかろう!!」
リュリュ様の御声は聞こえてくるのに、ラッセ殿の声はまったく聞こえてこない。
「もう、よいわ! とっとと帰れ! 御用達の看板がなくなるのを黙ってみているがいい!」
その言葉が終わるや否や、ラッセ殿は謁見室から出てきた。そして軽く礼をしてきた。
「祝言までの間に、その娘をかどわかす」
「陛下、なりません!」
そんなことをしては……。
「フレード、黙れ! 余に逆らう気か!?」
「逆らうわけではなく、陛下をお諌めしているだけです!」
そんなことをしてしまえば彼女の笑顔がなくなってしまう。
「黙れ! お前はしばらく謹慎でもしておれ! 今すぐ余の前から消えろ」
「かしこまりました」
今のリュリュ様に何を言っても無駄だ。だから、着替えてラッセ殿にそのことを伝えた。
彼女が笑っているのなら、私はそれで良かったのだ。