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あの騎士様は素敵な方。
久しぶりにこの国でそんな方に会った。それが私は嬉しくて、つい次のお約束を取りつけてしまった。
次のお休みは、お祭りのあとだというから、この地に残るのことが初めて嬉しいと思った。
あの方の前では無邪気に振舞う必要もない。ありのままの私でいい。それがもの凄く嬉しかった。
「彼」に会ったとき以来の嬉しさだった。
お祭りのあと、また騎士様とお会いした。取り留めのない話は私の心を和ませてくれた。
お互いに名乗らない。そう取り決めをして、私はあの方を「騎士様」と呼ぶようになった。騎士様は私を「可愛らしい女性」と呼んでくれる。
そんな関係が嬉しかった。
でも、私は間もなく結婚をする。そうしたら騎士様とお会いできなくなる。
それも騎士様に伝えた。私の思い過ごしかも知れないけど、騎士様は寂しげな顔をなさっていらっしゃった。
それでも、会える限り会いたいという願いを騎士様は叶えてくださると約束してくださった
これも夢? 夢なら醒めないで。そう願わずにはいられなかった。
それは私の弱さなのだろう。
それでも、騎士様との逢瀬はなにものにも変え難かった。
いつもと変わらぬその日、騎士様とのお約束の日ではなかった。
結婚前に色々な場所を知っておくべきだというお手伝いさんの提案の元、私は街に出かけることになった。
ラッセ様はその日お仕事で隣の国へお出かけになられていた。
「ここが市場ですよ。お嬢様」
「まぁ、私のいた国よりたくさんのものがあるわ!」
お手伝いさんにばれるのが怖くて、私は市場とかお店のあるところに近づかなかった。だから、この活気がとても新鮮だった。
「左様ですか。ご結婚なさったら、お買い物もしていただきますからね」
「分かっているわ」
結婚してからはラッセ様のお食事を私が作ることになっている。だから、今は料理の勉強中なのだ。
いつからなのだろう、私に向ける視線を感じた。
そちらの方向に目を向けると、そこには騎士様と「彼」が立っていた。
久しぶりに見た「彼」は以前見たときよりも、年齢を感じさせた。
ずっと私は「彼」がヒトではないと思っていた。だから歳を取らないのだと。
でも、今回は違った。
あぁ、神様。どうしてあなたは残酷なのでしょう。
お手伝いさんにばれないように視線を逸らし、笑顔で買い物に興じた。