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文化も暮らし方も違う分からない国に嫁ぐ私にとって、時々私の婚約者であるラッセ様のいる国に行くのは唯一許された自由だった。
もうすぐラッセ様のお国の国王が即位十年を迎えられるらしく、そのお祝いもあるので是非と言われたことに私は驚いた。
ラッセ様と父では、父のほうが年下だ。そして、私の家は没落寸前。没落させたくない父は、隣国で富豪と名高い商家へ私が産まれてすぐ、結婚の約束を取り付けた。
そして婚約したのがラッセ様だ。
幼い頃から私は「ラッセ様の妻に相応しく」と言われ、商家の妻としてすべきことのみを教えられた。
当然、舞踏会にも出ることになる。
初めて私がかの国の舞踏会に出席したのは、わずか六歳の時だった。
その頃は前の王様が治めていらっしゃって、今の王様は王太子でもなかったと記憶している。
そこで私は「あの人」に会った。
幼い私にも優しく微笑んでくれた優しい方。
それから五年後、またその方に会った。同じように舞踏会で。
でも、五年経っても「あの人」の姿は変わっておらず、驚いた。
そして、その方は私のことを覚えていなかった。
そうよね。私のような子供、あの方が覚えているはずもないもの。悲しくなったが、仕方ないと思った。
それからも年に数回かの国に行くが、お会いしていない。
だから、私の思い出として残していた。
「カルロッテ様」
「なぁに?」
私はわざと無邪気に返事をした。
この国での処世術である。
「旦那様が間もなく帰っていらっしゃいますよ」
「ありがと」
ラッセ様に用意してもらった服は、子供服と言っても過言ではないような衣装だ。
今年私は十八になる。それなのに、ラッセ様の中では私はまだ幼い子供。
「ラッセ様、おかえりなさいませ!」
思いっきり笑顔でラッセ様をお迎えした。
ラッセ様はそんな私を抱き上げ、レディになったな、と笑っていらっしゃった。
「半年後に挙式をあげよう。その間、こちらに留まるように」
食事中、いきなり言われた。
「え? ずっと、ですか?」
今回侍女も置いてきたし、必要最低限しか持って来ていない。
「君はこちらに嫁ぐんだ。全てこちらで用意するのが当然でだろう? 何を困っている?」
「……いえ、いきなりでしたので」
「お父上にはきちんとお伝えしてるはずだがね」
わざと父は言わなかったのだろう。この人のご機嫌を伺って。
「分かりましたわ」
やはり私には自由がない。
次の日、私はこっそりラッセ様のお宅を抜け出した。
息が詰まる。私を馬鹿にするお手伝いさんばかりで嫌になる。いくらこの国の流儀に従っても馬鹿にしてくる。
どうせ、私はお金でラッセ様に買われたのだ。
既に涙もかれている。
「どうした?」
優しい声が聞こえてきた。
それが私の運命を変えた。