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もう一度意識を取り戻すと、見たことのないところにいた。
私たちが住んでた家よりも豪華な寝台。そして、今まで以上に手触りのいい夜着だった。
「お気がつきになりましたか」
見たこともないお手伝いさんがそこにいた。
「起きられたと報告いたします。そのままでいらして下さい」
すぐにそのお手伝いさんはいなくなり、間もなく「あの方」が入って来た。
「まだ名を名乗っていなかったな。カルロッテよ」
何故、私の名を知っていらっしゃるの?
「そなたの父上に聞いた。これより余の側室となる。そなたの父上は大層喜んでおられた」
父にとって私はただの道具。
「あなた……は?」
「余はこの国の王。リュリュである」
ふざけないで! でも私の口からその言葉は出てくることは無く、ただ唇ががたがたと震えていた。
「お忍びで町に出たときに、そなたを見初めた。そなたがどこの家の者なのか知るために、あの舞踏会を開いた」
ただひたすら我侭な言い分に、私は言葉を失った。
「まさか……」
「アレフィエフ商会の者から収賄容疑の話を持ちかけられるとは思いもしなかったが」
悦に入って全てを語るこの方に私は吐き気がした。
「収賄容疑の話とそなたを余に寄越すこと。それだけで、王家御用達の看板を守らせて欲しいと言われると思いもしなかった。留めに、ラッセを殺めるよう頼んだだけのこと」
その言葉に、私の幸せはこの方に踏みにじられたのだと悟った。
「あなたに絶望しました」
「なん……だと?」
やはりこの方は覚えていないのだ。
「私が初めてこの国に来た日、この宮殿で舞踏会がありました」
ラッセ様に連れられて、私は初めて宮殿に足を踏み入れた日でもある。
今思えば、ラッセ様は私の伴侶を捜してくださっていたのだろう。あの時の私はそれに気付かず、宮殿に来たものの放っておかれて、泣きそうになっていた。
「私はわずか六歳。今から十二年前の話です。その時私はあなたにお会いしていたのです。大人ばかりの舞踏会でどうしていいかわからない私は、外の噴水のところに行きました。そこであなたにお会いしました」
驚く顔を見つめながら、私は淡々と話す。
「不安で一杯の私に声をかけてくれたことが嬉しく、泣き止んだ私を優しく抱きしめてくれましたわね。
それから五年後、お会いした時は美しい方を傍にはべていらっしゃいました。外に抜け出した私にそのあと声をかけてくださいましたね。それが私には嬉しかったのです。
五年経ってもほとんど変わることのない方ですから、夢かもしくは幻と思うようになっていました。
辛い記憶の多い中で、私にとって唯一の救いでもあったのです。それをあなたは今、ご自身の手で壊しました」
次の瞬間、陛下の顔つきが替わっていた。
「それは、余ではない! 二度目は余であるが、一度目は余ではなく、余の兄だ!!」
いきなり怒鳴られて、私は首をすくめた。
「……思い出したぞ。あれはそなたのことであったか。女を撒くために行った噴水で泣きそうになっていた子供か!」
その程度の思い出でしかなかったのだろう。
「そなたは何故、兄上を思い出させる! やっと夢に出てこなくなったのに! 許さぬとやっと言われなくなったのに!!」
「リュリュ様!!」
唐突に割って入って来た声に私は驚いた。
二度とお会いすることも無いと思っていた騎士様がそこにいらっしゃったのだ。
「あなたはあの日から何も変わっていらっしゃらないのですか!?」
騎士様は私を背中に庇うなり、陛下にそう仰っていた。
「黙れ!!」
「今日という今日は黙っていられません! 盗賊をけしかけ国に貢献している方を殺めるなど、賢帝と名高いあなたのすることではございません!!」
「余が悪いのではない! アレフィエフが悪いのだ! 余の命令に背いた……」
「ラッセ殿のどこに非があったと仰るのですか!? ただ奥方を守ろうとしただけでしょう!?」
騎士様がここまで声を荒げる方だとは思わなかった。でも、父に怒鳴られたときとは違う。騎士様は私の為に怒ってくださっているのだ。
「フレード! 貴様は黙れ!! まだ謹慎が解けておらぬはずだ!」
「謹慎中であろうとも、主をお諌めするのが私の任務です!」
「黙れ!!」
陛下が柄に手をかけた。
「騎士様!!」
私は考える間もなく騎士様と陛下の間に割って入ってしまった。




