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NOeSIS─笑顔の裏側─  作者: 宛 幸
第1章 怪奇ウィーク
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第3話 逃避─とうひ─

 ──ボクは甘いもの好きのよみと那由多とで三人、学校帰りに町のファミレスに足を運んでいた。

 なぜファミレスかと問われれば、ボクにもわからない。

 よみと那由多、二人がそろった所であれよそれよとボクまで巻き込まれてしまっていた。

 甘いものは得意ではないけど、嫌いでもない。

 それでもボクは女の子だけでいいのではと疑問をぶつけたが、ボクも着いて来ないと今晩のおかずは抜きという古典的で脅迫ジミた事を言うから、気分転換の寄り道がてら着いてきたわけだけど。

 寄り道なんていつ以来だろうか。基本あまり外に出て何かするって言ったら、ゲーセンで音楽ゲームか格闘ゲームするくらいだろうか。

「えっとー、チョコパフェとイチゴパフェとバナナパフェを一つずつ」とよみ。

「那由多はデラックスミックスパフェを二つ!」と那由多。

 三つ違う味を頼むよみはすごいが、山みたいなこんもりとしたドデカいパフェを頼む那由多も充分すごかった。しかも二つ……驚愕を通り越して呆れた。

 二人は大の甘いもの好きらしい。

 ボクはその二人の勢いによってお腹いっぱいだ。

「さめさめはどうするの?」

「あ、那由多と同じのに──」

「カフェオレ一つお願いします」

 過ちを犯す前に、ボクは決断をしていた。

 那由多が頼むよりもいち早く頼み遮る。

「チェッ、殻雨(よしさめ)君はつれないなー。ま、いいけど」

 ボクがパフェを頼まないと知ると、メニューに目を戻す。

 ……まだ何か頼む気なのか。

「そういえば、那由多って生徒会長なんだよね?」

「うん、そうだよ。もうすぐ任期切らすけどねー」

「さめさめって本っ当、周りみないよね。大雑把というか」

 よみに言われるか。

 確かにそうかも知れない。興味ない物はとことん視野に入れないからな。

「だからボクの名前とかよみの事とか知ってたんだ」

「そういう事にしといて」

 目線はメニューを外さす、乾いた笑顔をして那由多は結って短くなった髪をいじる。

「さめさめはデリカシーに欠けるんだよ!生徒会長さんに失礼だと思わないっ!?」

「そういうよみは女子力に欠けるよ──」

「さめさめ、なぁに??」

「うな気がしたけどやはり、よみ以上に女子力ある生徒はいないと思うなっ!」

 ミシミシと握りしめたコップを今にも粉砕しそうなよみの迫力に、ボクは負けた。

「やださめさめったら!照れちゃうよっ!?」

 照れた勢いでボクは肩に致命傷を負った──気がしたが、コップの命をその名の通り散らすことを避けられたことで良しとすることにした。

「穀雨くんとよみよみは仲良しなんだね」

「まぁ幼なじみだしね」

「……」

「よみ?」

「あ、うんっ、幼なじみ幼なじみ!」

 名前を呼ばれた途端にボーッとする隣の幼なじみ。

「大丈夫か……?」

「だいじょーぶっ!甘いものを補給したら元気いっぱいだよ!」

「したらか」

「そのパフェが来るの遅いねー。あ、この超絶あまあま白玉餡蜜っての美味しそー」

 名前からして超絶に胃を刺激しそうな物を……。

「すみませーん!」

 て、頼む気かっ!?

 呼び出しベルが脇にあると言うのに、いろんな意味でチャレンジャーだこの人。

 数分してウェイトレスがスカートを翻してやってきた。

 ──そして盛大に転んだ

「いたーいっ」

 ウェイトレスは漫画みたいな転び方をして、スカートの中を見せびらかした。

「──……だ、大丈夫ですか……?」

 一瞬思考停止してから近寄り肩を抱き起こす。

「むぇ……大丈夫でひゅぅ」

 変な声を出すウェイトレスを起こすと、よみを見て反応を示す。

「──よみせんぱい!」

「……ふぇ?」

 マヌケな返事をしたよみは首を傾げてウェイトレスを見つめる。

 そして数秒、

「昨日ぶりですね!」

「……?」

 琥珀の瞳をうるうるとさせ、期待の眼差しをよみに送る。

「憶えて……ないですか?」

 リス──小動物のような雰囲気を持つ彼女の上目遣い……直ではないとはいえ、破壊力がある。

「えーっと……(こずえ)ちゃん?」

「──はいっ!梢です!数馬梢、バスケ部一年の若輩者!!」

 ビシッと敬礼してみせる彼女は明るい笑顔だった。

 バスケ部の一年ってことは──

「よみの後輩って、そういうことか」

「はいっ!!よみせんぱいはすごいんですよ!ボール一つ手掴みして投げる──するとバンってすごい音がしてゴールが弾け飛ぶんですっっ!!」

 それはすごい。ダメな意味で。

 学校の備品が常日頃、よみのドジで次々にデストロイされていく。

 呆れ通り越して感動ものだよ。

 褒めはしないけど。

「よみよみはバスケ部のダークエースだもんね」

 ダークホースの間違いじゃないのか。

 なんなんだ、ダークエースって。

 ぴったりだけどさ。

「生徒会長さんったらひどいなーもぅ。よみよみはバスケ部のアイドルですよ~──きらっ☆」

「なあ後輩店員」

「あ、はい!」

「頼んだ品がまだ来ないのはなぜ?」

 よみよみはスルーですか!とツッコミする幼なじみはおいて、ドジなよみの後輩に訊く。

「──は!ただいまお持ち致しますぅぅぅっっ!!!」

 慌てて引っ込んで行くよみの後輩(強調)の声は消えゆくヤマビコのように儚く遠ざかった。

 慌ただしい奴だと思った。

 あのまま注文が遅くなれば、魔王が降臨する所だった。

 ──口先の魔術師という名の……魔王(クレーマー)が──。

 相手が誰でも関係ない、血も涙もない。

 女の子は甘いものが好きだと言うが、そこまでする女の子というのは、そうはいない。

 マニュアル外の期待外れな事をすると、たちまち心を鬼──否、邪神としてどこまでも這い寄って行く。

 それなら最初からマニュアル通り、書かれた事の通りに動いて怒らせない事が重要となる。

 身内には甘いはずだ──なんて考えは捨てた方がいい。

 だからボクが先に訊いておく事でそれなりに被害を抑えられる。

 ……はずだ。

「──穀雨くん」

「はい?」

「優しいね」

「え?」

 にこにこしてこっちを見る那由多。

 その顔が……瞳が、なぜか温かいと感じた。

 何かを知っている……そしてそれを隠している、敵かもしれないのに。

 だけどこの時のボクはまだ知らないんだ。

 時の歯車は崩れ、噛み合わなくなっている事に──。


 × × ×


「……」

「どうしたの、さめさめ」

「いやさ」

 重い。

「よくあんなに甘いもの食べられるなって」

 結局あのあと那由多はカップルや数名で食べる系のパフェなどの甘味を頼んで食べ尽くした。

 甘いものは嫌いではないけれど、あれを見てるだけでお腹いっぱいどころか胸やけまでしてきた。

 食べたわけでもないのに、あの光景を思い出しただけで吐きそうだ。

 金額だけでも寒気が漂って消えない。

「女の子にとって甘いものは別腹なんだよ、さめさめ」

「それにしても限度があるだろ限度が」

 メニューを片っ端からデザートを頼む女の子がこの地球上にどれほどいるだろうか。

 恐らく1%にも満たないだろう。

 どんなにいたとしても、見るのも付き添うのもこれっきりであってほしい。切実に。

「食欲とは時に非情なものなのだよ」

「何悟ったようなこと言ってるんだ」

 花より団子の大食らいのくせに。

「だってパフェだよ?甘いあまーいスイーツだよ!?女の子ならみんな大好きなんだよ!!」

 だからってメニューから片っ端に頼む奴はそうはいない。

 人の声や車のエンジン音がざわついた街並みを抜け、人気が少ない通りに入る。

 夕暮れが茜色の道を作り、その日の終着駅へと誘う。進めば進むほど瑠璃色に染まって行く。

 人が通らない住宅街からは、夕時を知らせる夕飯の匂いが漂う。

 ──ふと、電柱の影から何かがこちらを見ていた気がした。

 まばたきをすると気配は消えていたから気のせいだと思う。

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 ボクはよくわからない寒気を感じていた。



 ──人は危機を感じると体が勝手に動くという。

 条件反射で体はしゃがみ込み、地面に這いつくばっていた。

 目にも留まらぬ速さで〝それ〟は通り過ぎて行った。

「……」

 悪寒と汗が吹き出てきて感情が後から押し寄せた。

 慣れというのは怖い。

 生活で染み付いた行動は自然と出てしまうもの。

 それが今出たということは、そういうことではないのか。

「やっぱりか……よみ」

「ごめん、手が滑っちった☆」

「口が滑っても手は滑べらすなってあれほど言ったじゃないか。危うく死ぬ所だったぞ……」

 通り過ぎた〝それ〟は、壁にめり込み原型を留めてはいなかった。

「そこにちょうどいい電柱があったからさ」

「……だからって投げるなよ、んなもん」

 心肺停止以上に悲惨な事になり兼ねなかった。

「だってさめさめがボーッとしてたから、目を覚ましてあげようかと思って」

「目を覚ますどころかそのまま意識なくなるとこだったよ」

 ──死という形で。

 よみは繊細という言葉からかけ離れた自然と暴力が出る生物学上は人間の雌……

「穀雨、それ以上余計なこと考えると──ね?」

「……ナニモカンガエテナンカナイヨ」

 これ以上何も考えない。それを肝に銘じた。

 察しがいいのか頭の中が読めるのか、女というのは怖い生き物だ。

「さめさめが単にわかりやすいだけだよ」

「そう?」

「じゃなかったら、女の感というやつが優秀なだけなのだよ」

「それはそれはごたいそーなこって」

 夕日が町を包み、茜色を演出する。

 そんな中、住宅街を歩くボクとよみ。

 さっきまで何かを感じていた気がする。物理的なものじゃなくて、もっと……何か、精神の奥に突き刺さる何かを。

 それがわかれば心のつっかえ棒は取れるのだろうか。

 ──何か危険なシグナルが鳴っている。

 そんな気がした。

「家に着いたよ」

 だがそれは無駄話をしている内に心のどこかへ追いやり、いつの間にか考えなくなっていた。

「夕飯楽しみだわー」

「うわ、さめさめが普段言わないようなこと言ってる。正直キモい」

 直球だった。 

執筆始め 2014/8/7

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