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スキル『ポイントカード』に目覚めました。

掲載日:2026/11/03

「おめでとうございます、レントさん。固有スキルが発現しています」


「本当ですか!?」


 冒険者ギルドの一階。


 受付嬢ミーナの言葉に、レント・アルバは勢いよく立ち上がった。


 二十歳。


 冒険者歴三年。


 ランクは最低のF級。


 三年間で受けた依頼は百を超える。


 薬草採取。


 角ウサギの捕獲。


 下水道の掃除。


 商人の荷運び。


 家出した猫の捜索。


 討伐依頼も受けたことはある。


 ただし相手はスライムや大ネズミが中心。


 ゴブリンなら一匹。


 二匹なら、かなり頑張る。


 三匹いたら帰る。


 そんな冒険者だった。


「ついに……!」


 レントは拳を握った。


 固有スキル。


 ごく一部の人間だけが目覚める、特殊な能力。


《剣聖》


《魔力増幅》


《高速詠唱》


《鉄壁》


《竜眼》


 強力な固有スキルを持つ者は、冒険者として大成する可能性が高い。


 レントは三年間待っていた。


 自分にも何かあるんじゃないか。


 今はF級でも。


 いつか。


 そんな淡い期待を捨てきれずにいた。


「それで!?」


 受付台へ身を乗り出す。


「俺のスキルは!?」


「はい」


 ミーナが鑑定水晶に浮かんだ文字を読み上げた。


「《ポイントカード》です」


「…………」


「…………」


「もう一度お願いします」


「《ポイントカード》です」


「弱そう」


「まだ効果を見ていませんよ」


「じゃあ格好よく言ってください」


「《ポイントカード》!」


「声を張ってもポイントカードはポイントカードなんですよ」


 近くにいた冒険者たちが吹き出した。


「ガッハッハッハッ!」


 中でも一番うるさかったのが、大剣を背負った大男だった。


「ポイントカードってお前! なんだそりゃ! 十回依頼を受けたら一回無料か!?」


「依頼が無料ってなんだよ、ガルド!」


 ガルド・バルガス。


 三十二歳。


 C級冒険者。


 二メートル近い巨体と大剣が特徴の戦士だ。


 レントが駆け出しだった頃から何かと世話を焼いてくれている。


 その隣では、赤髪の女魔術師セシリアが肩を震わせていた。


「駄目……ちょっと待って……ポイントカード……ふふっ」


「笑うな!」


「ご、ごめん。でも、名前が平和すぎるのよ」


「俺だってもっと《神滅剣》とか《無限魔力》とか欲しかったよ!」


「欲張りすぎ」


 笑い声が広がる。


「それで、ミーナさん。効果は?」


「確認しますね」


 ミーナが水晶へ触れた。


 直後。


 レントの目の前に、半透明のカードが現れた。


「うわっ!?」


 白い長方形。


 そこには丸い枠が百個並んでいる。


 一番上には。


────────────────


固有スキル《ポイントカード》


毎日のログイン、および提示されたミッションの達成により

ポイントスタンプを獲得できます。


一定数のスタンプが貯まると

自動的に特典が付与されます。


現在:0P


────────────────


「……スタンプ?」


 レントが首を傾げる。


 さらに下を見る。


────────────────


《累計特典》


10P 《身体能力強化Ⅰ》


30P 《武器適性》


50P 《成長補助》


100P ???


────────────────


「…………」


 レントはしばらく黙った。


「ガルド」


「おう」


「身体能力強化って書いてある」


「…………」


「セシリア」


「何?」


「武器適性って書いてある」


「…………」


 三人が顔を見合わせた。


「これ」


 セシリアの笑いが消えた。


「結構すごくない?」


「だよな!?」


 レントはカードへ食いついた。


 問題はポイントの入手方法だ。


「ログインって何だ?」


 そう呟いた瞬間。


────────────────


《初回ログイン》


1P獲得しました。


現在:1P


────────────────


 ポンッ。


 一つ目の丸に、赤い印が押された。


「増えた!」


「何したの?」


「何もしてない!」


「何もしてないのに増えたの?」


「ログインしたらしい!」


「ログインって何よ」


「俺にも分からん!」


 するとカードの表示が切り替わった。


────────────────


《本日のミッション》


以下から一つ達成してください。


① 薬草を10本納品する


② 魔物を1体討伐する


③ 5キロメートル以上歩く


報酬:1P


────────────────


「……なるほど」


 ミーナが納得したように頷く。


「毎日一度、カードを開くと一点。そして課題を一つ達成すると一点ということでしょうか」


「じゃあ、一日二ポイント?」


「現時点ではそう見えます」


 レントが数える。


「十ポイントまで……五日」


 五日。


 たった五日。


 三年間F級だった自分が。


 あと五日で《身体能力強化Ⅰ》を手に入れられる。


「やる」


 即答した。


「俺、やります」


「まあ、そうなるわよね」


 セシリアが笑った。



     ◇



 一日目。


「薬草十本!」


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


現在:2P


────────────────



 二日目。


────────────────


ログインボーナス。


1P獲得。


現在:3P


《本日のミッション》


① スライムを3体討伐する

② 薬草を20本採取する

③ 冒険者ギルドの依頼を1件達成する


────────────────


「全部いつもやってることだな」


 レントは③を選んだ。


 街道沿いに出没する大ネズミの駆除。


 夕方。


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


現在:4P


────────────────



 三日目。


────────────────


《本日のミッション》


① 10キロメートル以上歩く

② 魔物を5体討伐する

③ 誰か一人を手伝う


────────────────


「三番、ふわっとしてない?」


 レントは首を傾げた。


 その直後。


「レント!」


 ガルドの声。


「ちょうどいいところにいた! 荷物持ってくれ!」


「お前C級だろ!」


「腰やった!」


「何してんだよ!」


 ガルドの荷物を宿まで運ぶ。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


《誰か一人を手伝う》


1P獲得。


現在:6P


────────────────


「これでいいのかよ!」


「ガッハッハ! 俺に感謝しろ!」


「腰痛めたおっさん運んで強くなる冒険者ってなんだよ!」


「誰がおっさんだ! 三十二だぞ!」


「十分おっさんだろ!」


「殺すぞ!」


「腰治してから来い!」


 ガルドが腰を押さえたまま追いかけてきた。



     ◇



 そして五日目。


────────────────


ログインボーナス。


1P獲得。


現在:9P


────────────────


「あと一個……」


 レントはカードを見る。


────────────────


《本日のミッション》


① ゴブリンを1体討伐する

② 15キロメートル以上歩く

③ F級依頼を2件達成する


────────────────


「ゴブリン」


 即決した。


 一番早い。


 それに。


 十ポイント目だ。


 簡単な方法では取りたくなかった。


「俺、行ってきます!」


「気をつけてくださいね」


 ミーナが送り出す。


 だが。


「待て」


 ガルドが立ち上がった。


「俺も行く」


「一匹だぞ?」


「知ってる」


「俺でも倒せる」


「知ってる」


「じゃあなんで?」


「十個目なんだろ?」


 ガルドがニヤッとする。


「見物だ」


「私も」


 セシリアも立ち上がる。


「暇なのか、お前ら」


「面白そうじゃない」


 結局、三人で森へ向かった。



     ◇



「いた」


 木陰。


 一匹のゴブリン。


 棍棒を持っている。


「手ぇ出すなよ」


「出さねえよ」


「危なくなったら助けるけどね」


「それでいい」


 レントが短剣を抜く。


「ギィ!」


 ゴブリンが気づいた。


 走ってくる。


「来い!」


 棍棒。


 かわす。


 短剣を振る。


「くっ!」


 浅い。


 ゴブリンが振り返る。


 もう一度。


「ギャア!」


「うおっ!」


 肩を掠めた。


 痛い。


 それでも。


「負けるか!」


 踏み込む。


 腹。


 短剣が刺さった。


「ギ……」


 ゴブリンが倒れる。


 静かになった。


 そして。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


現在:10P


────────────────


 十個目の丸へ。


 赤いスタンプが押された。


 直後。


 カード全体が光った。


────────────────


《10P特典》


《身体能力強化Ⅰ》


獲得しました。


────────────────


「来た……!」


 全身が熱くなる。


「お、おお……?」


 レントは自分の手を見る。


 筋肉が膨れ上がったわけではない。


 見た目はほとんど変わらない。


 だが。


 体が軽い。


「レント」


 ガルドが自分の大剣を地面へ置いた。


「持ってみろ」


「無理だよ」


「いいから」


 レントは柄を握った。


「ふっ……!」


 持ち上がった。


「え?」


 今まで両手でも持ち上げるのがやっとだった大剣。


 それが。


 持てる。


「うおおおお!?」


「マジか」


 ガルドの顔から笑いが消えた。


「身体能力、どのくらい上がった?」


「分からない」


「ギルドで測るわよ」


 セシリアの目が完全に研究者になっていた。



     ◇



 測定結果。


「平均的なF級冒険者から、E級上位程度ですね」


 ミーナが結果を読み上げた。


「一気に!?」


「筋力、敏捷性、持久力、反応速度。全体的に上昇しています」


「すげえ……」


 だが。


 ガルドは腕を組んだ。


「強くはなった。でも、まだ大したことねえ」


「分かってるよ」


「剣の腕はそのままだ」


「……うん」


「力が上がっただけで調子に乗ったら死ぬぞ」


「分かってる」


 レントはカードを見る。


────────────────


10P 《身体能力強化Ⅰ》 獲得済


30P 《武器適性》


50P 《成長補助》


100P ???


────────────────


「次は三十か」


 一日二ポイント。


 あと十日。


「焦るなよ」


 ガルドが言った。


「カードは逃げねえ」


「分かってるって」


「お前、顔が完全にポイントの奴隷だぞ」


「どんな顔だよ!」


 セシリアが笑った。



     ◇



 十ポイントを超えてから。


 ミッションが少しずつ変化した。


────────────────


《本日のミッション》


① ゴブリンを3体討伐する

② E級相当の魔物と戦闘する

③ 剣を100回素振りする


────────────────


「難しくなってる……」


「あなたが強くなったからじゃない?」


 セシリアの推測は当たっているようだった。


 別の日。


────────────────


① 冒険者と模擬戦を行う

② 一人で野営する

③ 魔物を5体討伐する


────────────────


「一番!」


「おう!」


 ガルドに頼んだ。


 結果。


 三秒で転がされた。


「弱え!」


「知ってるよ!」


 それでも。


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


────────────────


「勝たなくてもいいのか」


「『模擬戦を行う』だからね」


 セシリアが言う。


「このスキル、課題をよく読んだ方がいいわね」


 さらに別の日。


────────────────


① 一人で野営する

② 仲間と連携して魔物を討伐する

③ 自分より強い相手から一撃を奪う


────────────────


「二番」


 その日はガルド、セシリアと一緒に森へ入った。


「右!」


「分かってる!」


 ガルドがゴブリンの注意を引く。


「《火球》!」


 セシリアが退路を塞ぐ。


「今!」


 レントが斬る。


 戦う。


 考える。


 失敗する。


 また挑戦する。


 気づけば。


 ポイントを貯めるためだけだったはずの毎日で。


 レントは冒険者らしいことをするようになっていた。



     ◇



 十五日目の朝。


────────────────


ログインボーナス。


1P獲得。


現在:29P


────────────────


「来た」


 あと一つ。


────────────────


《本日のミッション》


① ホブゴブリンを討伐する

② E級以上の依頼を達成する

③ 冒険者との模擬戦で一本取る


────────────────


「……露骨に難しくなってない?」


 ミーナが覗き込む。


「どれにします?」


「三番」


「え?」


「ガルド」


 レントが振り返る。


 大男がニヤリと笑った。


「いいぜ」


「一本取らせろ」


「馬鹿野郎」


 ガルドが木剣を肩へ乗せる。


「取ってみろ」



     ◇



 ギルド裏の訓練場。


 冒険者たちが集まっていた。


「始め!」


 レントが走る。


「遅え!」


 ガルドの木剣。


「ぐっ!」


 一撃で転がされた。


「もう一回!」


「来い!」


 二回目。


 負ける。


 三回目。


 負ける。


 五回。


 十回。


「はぁ……はぁ……」


「どうした!」


「まだ!」


 十一回目。


 レントは考えた。


 力では勝てない。


 速さでも。


 技術でも。


 だったら。


 ガルドが踏み込む。


 いつも右上から来る。


 受けない。


 レントは前へ出た。


「なに!?」


 木剣を捨てる。


「お前!?」


 懐へ。


 ガルドの胸へ手を当てた。


「取った!」


「は?」


 周囲が静まる。


 ミーナがカードを見る。


「駄目です」


「ええ!?」


「一本になっていません」


「そりゃそうだろ!」


 ガルドが爆笑した。


「剣捨ててタッチしてどうすんだ!」


「くそおおお!」


 十二回目。


 十三回目。


 十四回目。


 そして。


 十七回目。


 ガルドの木剣が振り下ろされる。


 レントは半歩ずれた。


 完全には避けられない。


 肩を打たれる。


「ぐっ!」


 それでも。


 止まらない。


 自分の木剣を。


 ガルドの脇腹へ。


 コツン。


 触れた。


「……」


 ガルドが止まる。


 レントも止まる。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


現在:30P


────────────────


「よっしゃあああああ!」


 カードが光る。


────────────────


《30P特典》


《武器適性》


武器を手にした際、その武器の基本的な扱い方を

直感的に理解できるようになります。


────────────────


「……基本的な扱い方?」


 レントは木剣を握り直した。


「うわ」


 分かる。


 握り方。


 構え。


 重心。


 刃筋。


「ガルド」


「なんだ?」


「もう一回」


「調子乗んな」


 三秒後。


 レントは地面に転がっていた。


「基本だけじゃ俺には勝てねえよ!」


「分かってるよ!」


 だが。


 以前とは違った。


 何をされたのか。


 少し分かった。



     ◇



 三十ポイントを超えると。


 ミッションはさらに冒険者らしくなった。


────────────────


《本日のミッション》


① E級依頼を1件達成する

② オークとの戦闘を経験する

③ パーティーで依頼を達成する


────────────────


 この頃。


 新しい仲間が加わった。


「リリィ・エルネです。神官です」


 銀髪の少女が頭を下げる。


 十七歳。


 E級。


 治癒魔法を使える。


「よろしく」


「こちらこそ」


「こいつポイントのことしか考えてねえから気をつけろ」


「ガルド!」


「事実でしょ」


「セシリアまで!」


 リリィが小さく笑った。


「変わった方ですね」


「初対面でそれ言う?」


「すみません」


「笑いながら謝らないで!?」


 四人で依頼を受けた。


 ゴブリン集落の偵察。


 薬草地帯の安全確認。


 商隊護衛。


 魔物討伐。


 ポイントは一日二つしか増えない。


 どれだけ魔物を倒しても増えない。


 百匹倒しても同じ。


 だからこそ。


 レントは一つ一つのミッションへ向き合った。


 そして。


 ある日。


 ギルドから呼び出された。


「レントさん」


「はい」


 ミーナが新しい冒険者証を置いた。


「E級昇格です」


「…………」


 レントは固まった。


「俺が?」


「はい」


 三年間。


 ずっとFだった。


「俺……E級になったの?」


「なりました」


「ポイントは?」


「知りません」


 カードを見る。


 何も起こらない。


「入らない!」


「昇格はミッションではありませんから」


「そこはくれよ!」


「カードに言ってください!」


 ガルドたちが爆笑した。


 レントも。


 少し遅れて笑った。


 ポイントは入らなかった。


 でも。


 嬉しかった。



     ◇



 二十五日目。


────────────────


現在:49P


────────────────


 次は。


《成長補助》


 説明はまだ表示されない。


「今日で五十……」


────────────────


《本日のミッション》


① オークを1体討伐する

② E級依頼を2件達成する

③ 仲間を守って戦闘を終える


────────────────


「三番」


 レントは選んだ。


「なんで一番じゃないの?」


 セシリアが聞く。


「オークなら四人で倒せるでしょ」


「なんとなく」


「何よそれ」


「五十個目だから」


 レントは笑った。


「ちょっと難しいのがいい」


 その日の依頼は。


 街道警備だった。



     ◇



「おかしい」


 ガルドが止まった。


「どうした?」


「静かすぎる」


 街道。


 森。


 鳥の声がない。


「全員、武器抜け」


 大剣。


 杖。


 メイス。


 レントも剣を抜く。


 直後。


「グルルルル……」


 森の中から。


 黒い狼が現れた。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


「ブラックウルフ……!」


 リリィが息を呑む。


 E級上位の魔物。


 さらに。


「まだいる!」


 六匹。


 七匹。


「群れか!」


「囲まれるな!」


 戦闘になった。


「《火球》!」


 炎。


「おらあ!」


 ガルドの大剣。


「リリィ、下がれ!」


「はい!」


 レントも戦う。


《武器適性》


 剣の基本は分かる。


《身体能力強化Ⅰ》


 以前より動ける。


 だが。


 それだけ。


「くっ!」


 ブラックウルフの牙が腕を掠める。


「レント!」


「大丈夫!」


 倒す。


 一匹。


 二匹。


 そのとき。


「きゃっ!」


 リリィが転んだ。


 一匹のブラックウルフが飛びかかる。


「リリィ!」


 考えるより早く。


 体が動いた。


「うおおっ!」


 間へ入る。


 剣。


 間に合わない。


 左腕を出した。


「ぐあっ!」


 牙が食い込む。


「レントさん!」


「離れろ!」


 右手の剣を。


 狼の腹へ。


 突き刺した。


「ギャウッ!」


 倒れる。


 最後の一匹。


 ガルドの大剣が仕留めた。


 静寂。


「レントさん!」


 リリィが駆け寄る。


「腕を!」


「大丈夫……」


「大丈夫じゃありません!」


 治癒魔法の光。


 その最中。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


《仲間を守って戦闘を終える》


1P獲得。


現在:50P


────────────────


 カードが光った。


────────────────


《50P特典》


《成長補助》


訓練・実戦・学習によって得られる経験の定着率が向上します。


この能力そのものは

あなたを強くしません。


────────────────


「…………」


 レントは説明を読んだ。


「強くならない?」


「どうしたんです?」


 リリィが尋ねる。


「五十ポイントの特典」


「何でした?」


「訓練とか実戦で覚えるのが早くなるらしい」


 ガルドが笑った。


「最高じゃねえか」


「え?」


「お前に一番必要な能力だ」


「なんで?」


「身体能力を貰った」


 ガルドが指を一本。


「武器の基本も貰った」


 二本。


「でもな」


 レントの額を指で弾く。


「そこから先は、自分で強くなれってことだろ」


「……」


 カードを見る。


《この能力そのものは、あなたを強くしません》


「そっか」


 レントは笑った。


「じゃあ、訓練するか」


「明日から地獄だぞ」


「え?」


「俺が鍛えてやる」


「ちょっと待て」


「成長しやすくなったんだろ?」


「そうだけど!」


「有効活用しねえとな!」


「ガルド! 笑顔が怖い!」


 翌日から。


 本当に地獄だった。



     ◇



 一か月後。


 レントはD級へ昇格していた。


 ポイントは。


────────────────


現在:92P


────────────────


 身体能力は以前より大きく伸びた。


 だが。


 それはポイントで貰ったものではない。


 走った。


 剣を振った。


 ガルドに殴られた。


 セシリアに魔物の特徴を教わった。


 リリィから応急処置を習った。


 依頼へ出た。


 失敗した。


 また訓練した。


《成長補助》は。


 努力を無駄にしない。


 そういう能力だった。


「九十二か」


 そして。


 カードの最後。


────────────────


100P ???


────────────────


 何が貰えるのか。


 まだ分からない。


「あと四日……」


 そう思っていた。



     ◇



 翌朝。


 警鐘が鳴った。


 カン。


 カン。


 カン。


「魔物だ!」


 ギルドへ駆け込む。


「北門へ魔物の群れが接近しています!」


 ミーナが叫んでいた。


「確認数、百以上! ゴブリン、オーク、ウルフ系多数!」


「百!?」


「さらにオーガが二体!」


 空気が凍った。


 オーガ。


 C級相当。


「ガルド!」


「分かってる!」


 大剣を掴む。


「セシリア、来い!」


「ええ!」


「リリィは治療所!」


「はい!」


 レントも剣を取る。


 カードを見る。


────────────────


ログインボーナス。


1P獲得。


現在:93P


《本日のミッション》


① 魔物を10体討伐する

② 負傷者を3人救助する

③ 北門防衛戦を生き延びる


────────────────


 あと七。


 どうやっても。


 今日百にはならない。


「……」


 レントはカードを閉じた。


「レント!」


「今行く!」


 それでいい。


 今ある力で戦う。



     ◇



 北門。


「来るぞ!」


 魔物の群れ。


 土煙。


 怒号。


 ガルドが最前線へ。


「おおおおお!」


 大剣がオークを吹き飛ばす。


「《炎槍》!」


 セシリアの魔法。


「右だ!」


 レントが叫ぶ。


 ゴブリン。


 一体。


 二体。


 斬る。


「レント、後ろ!」


 振り返る。


 ウルフ。


 避ける。


 斬る。


 以前の自分なら。


 とっくに死んでいた。


 だが。


 今は違う。


 強くなった。


 少しずつ。


 毎日。


「九!」


 九体。


「十!」


 十体目。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


1P獲得。


現在:94P


────────────────


 それだけ。


 身体能力は上がらない。


 奇跡の武器も出ない。


「分かってるよ!」


 レントはカードへ叫んだ。


「今日はそれでいい!」


 戦う。


 自分の力で。



     ◇



「オーガだ!」


 巨大な影。


 一体目。


 ガルドが向かう。


「俺がやる!」


 二体目。


 別方向。


「まずい!」


 冒険者たちが押される。


「セシリア!」


「魔力が……!」


 彼女の顔が青い。


 撃ちすぎた。


 ガルドは一体目と交戦中。


「くそ!」


 レントが二体目へ向かう。


「レントさん!」


 リリィの声。


「行かないで!」


「誰かが止めないと門まで来る!」


「でも!」


「倒さなくていい!」


 レントは剣を構えた。


「時間を稼ぐ!」


 オーガが棍棒を振る。


「うおっ!」


 避ける。


 地面が砕けた。


 勝てない。


 分かる。


 武器適性があるから。


 成長補助で戦闘経験も積んだ。


 だからこそ。


 分かる。


 自分では。


 こいつを倒せない。


「だったら!」


 倒さない。


 避ける。


 引きつける。


「こっちだ!」


 オーガが吠える。


「グオオオオ!」


「そうだ! 俺を見ろ!」


 一撃。


 避ける。


 二撃。


「ぐっ!」


 肩を掠める。


 吹き飛ばされた。


「レント!」


「まだ!」


 立つ。


 剣を握る。


 また走る。


 時間を。


 一秒でも。


 十秒でも。


 ガルドが一体目を倒すまで。


「グオオオ!」


 棍棒。


 避けきれない。


「くっ……!」


 剣で受ける。


 折れた。


「レント!」


 丸腰。


 オーガが棍棒を振り上げる。


「ちくしょう……!」


 逃げる。


 間に合わない。


 その瞬間。


「しゃがめえええ!」


 ガルド。


 レントは地面へ伏せた。


 頭上を大剣が通過する。


「おおおおおおお!」


 オーガの膝へ。


 直撃。


「グオッ!?」


「セシリア!」


「最後の一発!」


 炎槍。


 顔面。


「レント!」


 ガルドが。


 自分の予備剣を投げた。


 レントが受け取る。


「行け!」


「おおおおお!」


 走る。


 倒れかけたオーガ。


 首。


 剣を。


 全力で。


「はあああああ!」


 振り抜いた。



     ◇



 夕方。


 北門防衛戦は終わった。


 死者。


 ゼロ。


 重傷者多数。


 街は守られた。


────────────────


《北門防衛戦を生き延びる》


ミッション達成。


1P獲得。


────────────────


「……ん?」


 レントがカードを見る。


────────────────


本日のミッションは達成済みです。


追加ポイントは獲得できません。


現在:94P


────────────────


「だよな」


 笑った。


 都合よく二個はくれない。


 それがこのカードだ。


「何笑ってるの?」


 セシリアが隣へ座る。


「いや」


 レントは首を振った。


「あと六日だなって」


「百ポイント?」


「うん」


「今日くれればよかったのにね」


「俺もそう思う」


「ケチね」


「ケチだよ」


 二人で笑った。



     ◇



 六日後。


 朝。


────────────────


ログインボーナス。


1P獲得。


現在:99P


────────────────


「来た」


 レントは息を呑む。


 あと一つ。


 カードが表示する。


────────────────


《本日のミッション》


① D級依頼を1件達成する


② 魔物を10体討伐する


③ 新人冒険者を一人助ける


────────────────


「…………」


 レントは三番を見た。


「これにする」


 その日の午後。


 ギルドへ行くと。


 少年が一人いた。


 十五歳くらい。


 革鎧。


 安物の剣。


 新品のF級冒険者証。


「すみません……」


 依頼掲示板の前で困っている。


「初めてなんですけど、どれを受ければ……」


 レントは。


 三年前の自分を思い出した。


 何も分からなかった。


 弱かった。


 怖かった。


「薬草採取にしとけ」


「え?」


「最初はな」


 依頼書を一枚取る。


「森の浅いところに生えてる。似た毒草があるから、見分け方教えるよ」


「いいんですか?」


「ああ」


 二人で森へ向かった。


 薬草を探す。


 採る。


 魔物を避ける。


 街へ戻る。


 受付へ納品。


「依頼達成です!」


 ミーナが笑う。


 少年の顔が輝いた。


「やった……!」


 その瞬間。


 レントの前で。


 ポンッ。


────────────────


ミッション達成。


《新人冒険者を一人助ける》


1P獲得。


現在:100P


────────────────


 カードが。


 金色に輝いた。


「来た……!」


 ガルド。


 セシリア。


 リリィ。


 ミーナ。


 いつの間にか全員が集まっていた。


「百だ!」


「早く見せろ!」


「私たちには見えないってば」


「何が出たんです?」


 レントがカードを見る。


────────────────


《100P特典》


固有スキル《ポイントカード》が成長しました。


新しいカードを発行します。


────────────────


「…………」


「どうした?」


「新しいカード」


「は?」


 目の前のカードが。


 ペラッ。


 裏返った。


────────────────


《ポイントカード 2枚目》


現在:0P


《累計特典》


10P 《身体能力強化Ⅱ》


30P 《武器適性・上級》


50P 《成長補助Ⅱ》


100P ???


────────────────


「…………」


 レントは黙った。


「レント?」


 セシリアが覗き込む。


「どうしたの?」


「二枚目」


「え?」


「二枚目が始まった」


「ガッハッハッハッハ!」


 ガルドが腹を抱えた。


「ポイントカードだからな!」


「百個で終わりじゃねえのかよ!」


「二枚目のカードをお渡しします、ってことね」


「店かよ!」


 リリィまで笑っている。


 ミーナが尋ねた。


「次は何が貰えるんです?」


「十ポイントで《身体能力強化Ⅱ》」


 全員が止まった。


「……強くなるじゃねえか」


「うん」


「三十は?」


「武器適性・上級」


「五十」


「成長補助Ⅱ」


「百は?」


「分からない」


 沈黙。


 そして。


 ガルドが笑った。


「じゃあ、また百個だな」


「簡単に言うなよ」


「何言ってんだ」


 ガルドがレントの肩を叩く。


「一日二個だろ?」


「まあ」


「たった五十日じゃねえか」


「ミッションが難しくなるんだよ!」


「なら強くなれ!」


「雑!」


 セシリアが笑う。


「でも」


 彼女が言った。


「いいスキルだったわね」


「……うん」


 レントはカードを見る。


 一枚目。


 百個のスタンプ。


 最初は。


 ポイントが欲しくて薬草を採った。


 ゴブリンを倒した。


 模擬戦をした。


 仲間と戦った。


 誰かを守った。


 でも。


 その百個の中で。


 E級になった。


 D級になった。


 仲間ができた。


 新人を助けた。


「ポイントカードか」


 レントは笑った。


「悪くないな」


 そして翌朝。



────────────────


《ログインボーナス》


1P獲得。


現在:1P


《本日のミッション》


以下から一つ達成してください。


① C級冒険者との模擬戦で一本取る


② オーガを1体討伐する


③ 20キロメートル走る


────────────────



「…………」



 レントはカードを閉じた。



「ガルド」


「なんだ?」


「今日、暇?」


「おう」


「模擬戦しようぜ」


「いいぞ」


「ちなみに」


「おう」


「一本取らせて」


「死ね」


「即答!?」



 ギルドに笑い声が響く。



 最低ランクだったF級冒険者レント・アルバ。


 彼が後に。


 王国でも指折りの冒険者へ成長することを。


 この時はまだ。


 誰も知らない。



 ただし。


 後年。


 S級冒険者となったレントが。


 王都の酒場で。


 若い冒険者からこう尋ねられたことがある。



「レントさん! 今、ポイントカード何枚目ですか!?」



 その問いに。


 英雄は酒を飲みながら。


 遠い目をした。



「…………十二枚目」



「すげえ!」


「ちなみに今日のミッションは?」



 レントは無言でカードを見せた。



────────────────


《本日のミッション》


① 古竜を1体討伐する


② 迷宮最深部へ到達する


③ 妻の買い物に最後まで付き合う


────────────────



「…………」



 若い冒険者が震えた。



「どれにするんですか?」



 王国最強クラスの冒険者は。


 迷わず答えた。



「古竜」



「三番は!?」



「無理だ」



「S級冒険者でしょう!?」



「だから分かるんだよ」



 レントは静かに酒を飲んだ。



「世の中にはな……戦ってはいけない相手がいる」



 翌朝。


 レントは古竜討伐へ出発した。



────────────────


ミッションを選択しました。


《古竜を1体討伐する》


報酬:1P


────────────────



「よし!」



 なお。


 妻に見つかり。


 討伐には行けなかったという。



               〈了〉

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