スキル『ポイントカード』に目覚めました。
「おめでとうございます、レントさん。固有スキルが発現しています」
「本当ですか!?」
冒険者ギルドの一階。
受付嬢ミーナの言葉に、レント・アルバは勢いよく立ち上がった。
二十歳。
冒険者歴三年。
ランクは最低のF級。
三年間で受けた依頼は百を超える。
薬草採取。
角ウサギの捕獲。
下水道の掃除。
商人の荷運び。
家出した猫の捜索。
討伐依頼も受けたことはある。
ただし相手はスライムや大ネズミが中心。
ゴブリンなら一匹。
二匹なら、かなり頑張る。
三匹いたら帰る。
そんな冒険者だった。
「ついに……!」
レントは拳を握った。
固有スキル。
ごく一部の人間だけが目覚める、特殊な能力。
《剣聖》
《魔力増幅》
《高速詠唱》
《鉄壁》
《竜眼》
強力な固有スキルを持つ者は、冒険者として大成する可能性が高い。
レントは三年間待っていた。
自分にも何かあるんじゃないか。
今はF級でも。
いつか。
そんな淡い期待を捨てきれずにいた。
「それで!?」
受付台へ身を乗り出す。
「俺のスキルは!?」
「はい」
ミーナが鑑定水晶に浮かんだ文字を読み上げた。
「《ポイントカード》です」
「…………」
「…………」
「もう一度お願いします」
「《ポイントカード》です」
「弱そう」
「まだ効果を見ていませんよ」
「じゃあ格好よく言ってください」
「《ポイントカード》!」
「声を張ってもポイントカードはポイントカードなんですよ」
近くにいた冒険者たちが吹き出した。
「ガッハッハッハッ!」
中でも一番うるさかったのが、大剣を背負った大男だった。
「ポイントカードってお前! なんだそりゃ! 十回依頼を受けたら一回無料か!?」
「依頼が無料ってなんだよ、ガルド!」
ガルド・バルガス。
三十二歳。
C級冒険者。
二メートル近い巨体と大剣が特徴の戦士だ。
レントが駆け出しだった頃から何かと世話を焼いてくれている。
その隣では、赤髪の女魔術師セシリアが肩を震わせていた。
「駄目……ちょっと待って……ポイントカード……ふふっ」
「笑うな!」
「ご、ごめん。でも、名前が平和すぎるのよ」
「俺だってもっと《神滅剣》とか《無限魔力》とか欲しかったよ!」
「欲張りすぎ」
笑い声が広がる。
「それで、ミーナさん。効果は?」
「確認しますね」
ミーナが水晶へ触れた。
直後。
レントの目の前に、半透明のカードが現れた。
「うわっ!?」
白い長方形。
そこには丸い枠が百個並んでいる。
一番上には。
────────────────
固有スキル《ポイントカード》
毎日のログイン、および提示されたミッションの達成により
ポイントスタンプを獲得できます。
一定数のスタンプが貯まると
自動的に特典が付与されます。
現在:0P
────────────────
「……スタンプ?」
レントが首を傾げる。
さらに下を見る。
────────────────
《累計特典》
10P 《身体能力強化Ⅰ》
30P 《武器適性》
50P 《成長補助》
100P ???
────────────────
「…………」
レントはしばらく黙った。
「ガルド」
「おう」
「身体能力強化って書いてある」
「…………」
「セシリア」
「何?」
「武器適性って書いてある」
「…………」
三人が顔を見合わせた。
「これ」
セシリアの笑いが消えた。
「結構すごくない?」
「だよな!?」
レントはカードへ食いついた。
問題はポイントの入手方法だ。
「ログインって何だ?」
そう呟いた瞬間。
────────────────
《初回ログイン》
1P獲得しました。
現在:1P
────────────────
ポンッ。
一つ目の丸に、赤い印が押された。
「増えた!」
「何したの?」
「何もしてない!」
「何もしてないのに増えたの?」
「ログインしたらしい!」
「ログインって何よ」
「俺にも分からん!」
するとカードの表示が切り替わった。
────────────────
《本日のミッション》
以下から一つ達成してください。
① 薬草を10本納品する
② 魔物を1体討伐する
③ 5キロメートル以上歩く
報酬:1P
────────────────
「……なるほど」
ミーナが納得したように頷く。
「毎日一度、カードを開くと一点。そして課題を一つ達成すると一点ということでしょうか」
「じゃあ、一日二ポイント?」
「現時点ではそう見えます」
レントが数える。
「十ポイントまで……五日」
五日。
たった五日。
三年間F級だった自分が。
あと五日で《身体能力強化Ⅰ》を手に入れられる。
「やる」
即答した。
「俺、やります」
「まあ、そうなるわよね」
セシリアが笑った。
◇
一日目。
「薬草十本!」
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
現在:2P
────────────────
二日目。
────────────────
ログインボーナス。
1P獲得。
現在:3P
《本日のミッション》
① スライムを3体討伐する
② 薬草を20本採取する
③ 冒険者ギルドの依頼を1件達成する
────────────────
「全部いつもやってることだな」
レントは③を選んだ。
街道沿いに出没する大ネズミの駆除。
夕方。
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
現在:4P
────────────────
三日目。
────────────────
《本日のミッション》
① 10キロメートル以上歩く
② 魔物を5体討伐する
③ 誰か一人を手伝う
────────────────
「三番、ふわっとしてない?」
レントは首を傾げた。
その直後。
「レント!」
ガルドの声。
「ちょうどいいところにいた! 荷物持ってくれ!」
「お前C級だろ!」
「腰やった!」
「何してんだよ!」
ガルドの荷物を宿まで運ぶ。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
《誰か一人を手伝う》
1P獲得。
現在:6P
────────────────
「これでいいのかよ!」
「ガッハッハ! 俺に感謝しろ!」
「腰痛めたおっさん運んで強くなる冒険者ってなんだよ!」
「誰がおっさんだ! 三十二だぞ!」
「十分おっさんだろ!」
「殺すぞ!」
「腰治してから来い!」
ガルドが腰を押さえたまま追いかけてきた。
◇
そして五日目。
────────────────
ログインボーナス。
1P獲得。
現在:9P
────────────────
「あと一個……」
レントはカードを見る。
────────────────
《本日のミッション》
① ゴブリンを1体討伐する
② 15キロメートル以上歩く
③ F級依頼を2件達成する
────────────────
「ゴブリン」
即決した。
一番早い。
それに。
十ポイント目だ。
簡単な方法では取りたくなかった。
「俺、行ってきます!」
「気をつけてくださいね」
ミーナが送り出す。
だが。
「待て」
ガルドが立ち上がった。
「俺も行く」
「一匹だぞ?」
「知ってる」
「俺でも倒せる」
「知ってる」
「じゃあなんで?」
「十個目なんだろ?」
ガルドがニヤッとする。
「見物だ」
「私も」
セシリアも立ち上がる。
「暇なのか、お前ら」
「面白そうじゃない」
結局、三人で森へ向かった。
◇
「いた」
木陰。
一匹のゴブリン。
棍棒を持っている。
「手ぇ出すなよ」
「出さねえよ」
「危なくなったら助けるけどね」
「それでいい」
レントが短剣を抜く。
「ギィ!」
ゴブリンが気づいた。
走ってくる。
「来い!」
棍棒。
かわす。
短剣を振る。
「くっ!」
浅い。
ゴブリンが振り返る。
もう一度。
「ギャア!」
「うおっ!」
肩を掠めた。
痛い。
それでも。
「負けるか!」
踏み込む。
腹。
短剣が刺さった。
「ギ……」
ゴブリンが倒れる。
静かになった。
そして。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
現在:10P
────────────────
十個目の丸へ。
赤いスタンプが押された。
直後。
カード全体が光った。
────────────────
《10P特典》
《身体能力強化Ⅰ》
獲得しました。
────────────────
「来た……!」
全身が熱くなる。
「お、おお……?」
レントは自分の手を見る。
筋肉が膨れ上がったわけではない。
見た目はほとんど変わらない。
だが。
体が軽い。
「レント」
ガルドが自分の大剣を地面へ置いた。
「持ってみろ」
「無理だよ」
「いいから」
レントは柄を握った。
「ふっ……!」
持ち上がった。
「え?」
今まで両手でも持ち上げるのがやっとだった大剣。
それが。
持てる。
「うおおおお!?」
「マジか」
ガルドの顔から笑いが消えた。
「身体能力、どのくらい上がった?」
「分からない」
「ギルドで測るわよ」
セシリアの目が完全に研究者になっていた。
◇
測定結果。
「平均的なF級冒険者から、E級上位程度ですね」
ミーナが結果を読み上げた。
「一気に!?」
「筋力、敏捷性、持久力、反応速度。全体的に上昇しています」
「すげえ……」
だが。
ガルドは腕を組んだ。
「強くはなった。でも、まだ大したことねえ」
「分かってるよ」
「剣の腕はそのままだ」
「……うん」
「力が上がっただけで調子に乗ったら死ぬぞ」
「分かってる」
レントはカードを見る。
────────────────
10P 《身体能力強化Ⅰ》 獲得済
30P 《武器適性》
50P 《成長補助》
100P ???
────────────────
「次は三十か」
一日二ポイント。
あと十日。
「焦るなよ」
ガルドが言った。
「カードは逃げねえ」
「分かってるって」
「お前、顔が完全にポイントの奴隷だぞ」
「どんな顔だよ!」
セシリアが笑った。
◇
十ポイントを超えてから。
ミッションが少しずつ変化した。
────────────────
《本日のミッション》
① ゴブリンを3体討伐する
② E級相当の魔物と戦闘する
③ 剣を100回素振りする
────────────────
「難しくなってる……」
「あなたが強くなったからじゃない?」
セシリアの推測は当たっているようだった。
別の日。
────────────────
① 冒険者と模擬戦を行う
② 一人で野営する
③ 魔物を5体討伐する
────────────────
「一番!」
「おう!」
ガルドに頼んだ。
結果。
三秒で転がされた。
「弱え!」
「知ってるよ!」
それでも。
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
────────────────
「勝たなくてもいいのか」
「『模擬戦を行う』だからね」
セシリアが言う。
「このスキル、課題をよく読んだ方がいいわね」
さらに別の日。
────────────────
① 一人で野営する
② 仲間と連携して魔物を討伐する
③ 自分より強い相手から一撃を奪う
────────────────
「二番」
その日はガルド、セシリアと一緒に森へ入った。
「右!」
「分かってる!」
ガルドがゴブリンの注意を引く。
「《火球》!」
セシリアが退路を塞ぐ。
「今!」
レントが斬る。
戦う。
考える。
失敗する。
また挑戦する。
気づけば。
ポイントを貯めるためだけだったはずの毎日で。
レントは冒険者らしいことをするようになっていた。
◇
十五日目の朝。
────────────────
ログインボーナス。
1P獲得。
現在:29P
────────────────
「来た」
あと一つ。
────────────────
《本日のミッション》
① ホブゴブリンを討伐する
② E級以上の依頼を達成する
③ 冒険者との模擬戦で一本取る
────────────────
「……露骨に難しくなってない?」
ミーナが覗き込む。
「どれにします?」
「三番」
「え?」
「ガルド」
レントが振り返る。
大男がニヤリと笑った。
「いいぜ」
「一本取らせろ」
「馬鹿野郎」
ガルドが木剣を肩へ乗せる。
「取ってみろ」
◇
ギルド裏の訓練場。
冒険者たちが集まっていた。
「始め!」
レントが走る。
「遅え!」
ガルドの木剣。
「ぐっ!」
一撃で転がされた。
「もう一回!」
「来い!」
二回目。
負ける。
三回目。
負ける。
五回。
十回。
「はぁ……はぁ……」
「どうした!」
「まだ!」
十一回目。
レントは考えた。
力では勝てない。
速さでも。
技術でも。
だったら。
ガルドが踏み込む。
いつも右上から来る。
受けない。
レントは前へ出た。
「なに!?」
木剣を捨てる。
「お前!?」
懐へ。
ガルドの胸へ手を当てた。
「取った!」
「は?」
周囲が静まる。
ミーナがカードを見る。
「駄目です」
「ええ!?」
「一本になっていません」
「そりゃそうだろ!」
ガルドが爆笑した。
「剣捨ててタッチしてどうすんだ!」
「くそおおお!」
十二回目。
十三回目。
十四回目。
そして。
十七回目。
ガルドの木剣が振り下ろされる。
レントは半歩ずれた。
完全には避けられない。
肩を打たれる。
「ぐっ!」
それでも。
止まらない。
自分の木剣を。
ガルドの脇腹へ。
コツン。
触れた。
「……」
ガルドが止まる。
レントも止まる。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
現在:30P
────────────────
「よっしゃあああああ!」
カードが光る。
────────────────
《30P特典》
《武器適性》
武器を手にした際、その武器の基本的な扱い方を
直感的に理解できるようになります。
────────────────
「……基本的な扱い方?」
レントは木剣を握り直した。
「うわ」
分かる。
握り方。
構え。
重心。
刃筋。
「ガルド」
「なんだ?」
「もう一回」
「調子乗んな」
三秒後。
レントは地面に転がっていた。
「基本だけじゃ俺には勝てねえよ!」
「分かってるよ!」
だが。
以前とは違った。
何をされたのか。
少し分かった。
◇
三十ポイントを超えると。
ミッションはさらに冒険者らしくなった。
────────────────
《本日のミッション》
① E級依頼を1件達成する
② オークとの戦闘を経験する
③ パーティーで依頼を達成する
────────────────
この頃。
新しい仲間が加わった。
「リリィ・エルネです。神官です」
銀髪の少女が頭を下げる。
十七歳。
E級。
治癒魔法を使える。
「よろしく」
「こちらこそ」
「こいつポイントのことしか考えてねえから気をつけろ」
「ガルド!」
「事実でしょ」
「セシリアまで!」
リリィが小さく笑った。
「変わった方ですね」
「初対面でそれ言う?」
「すみません」
「笑いながら謝らないで!?」
四人で依頼を受けた。
ゴブリン集落の偵察。
薬草地帯の安全確認。
商隊護衛。
魔物討伐。
ポイントは一日二つしか増えない。
どれだけ魔物を倒しても増えない。
百匹倒しても同じ。
だからこそ。
レントは一つ一つのミッションへ向き合った。
そして。
ある日。
ギルドから呼び出された。
「レントさん」
「はい」
ミーナが新しい冒険者証を置いた。
「E級昇格です」
「…………」
レントは固まった。
「俺が?」
「はい」
三年間。
ずっとFだった。
「俺……E級になったの?」
「なりました」
「ポイントは?」
「知りません」
カードを見る。
何も起こらない。
「入らない!」
「昇格はミッションではありませんから」
「そこはくれよ!」
「カードに言ってください!」
ガルドたちが爆笑した。
レントも。
少し遅れて笑った。
ポイントは入らなかった。
でも。
嬉しかった。
◇
二十五日目。
────────────────
現在:49P
────────────────
次は。
《成長補助》
説明はまだ表示されない。
「今日で五十……」
────────────────
《本日のミッション》
① オークを1体討伐する
② E級依頼を2件達成する
③ 仲間を守って戦闘を終える
────────────────
「三番」
レントは選んだ。
「なんで一番じゃないの?」
セシリアが聞く。
「オークなら四人で倒せるでしょ」
「なんとなく」
「何よそれ」
「五十個目だから」
レントは笑った。
「ちょっと難しいのがいい」
その日の依頼は。
街道警備だった。
◇
「おかしい」
ガルドが止まった。
「どうした?」
「静かすぎる」
街道。
森。
鳥の声がない。
「全員、武器抜け」
大剣。
杖。
メイス。
レントも剣を抜く。
直後。
「グルルルル……」
森の中から。
黒い狼が現れた。
一匹。
二匹。
三匹。
「ブラックウルフ……!」
リリィが息を呑む。
E級上位の魔物。
さらに。
「まだいる!」
六匹。
七匹。
「群れか!」
「囲まれるな!」
戦闘になった。
「《火球》!」
炎。
「おらあ!」
ガルドの大剣。
「リリィ、下がれ!」
「はい!」
レントも戦う。
《武器適性》
剣の基本は分かる。
《身体能力強化Ⅰ》
以前より動ける。
だが。
それだけ。
「くっ!」
ブラックウルフの牙が腕を掠める。
「レント!」
「大丈夫!」
倒す。
一匹。
二匹。
そのとき。
「きゃっ!」
リリィが転んだ。
一匹のブラックウルフが飛びかかる。
「リリィ!」
考えるより早く。
体が動いた。
「うおおっ!」
間へ入る。
剣。
間に合わない。
左腕を出した。
「ぐあっ!」
牙が食い込む。
「レントさん!」
「離れろ!」
右手の剣を。
狼の腹へ。
突き刺した。
「ギャウッ!」
倒れる。
最後の一匹。
ガルドの大剣が仕留めた。
静寂。
「レントさん!」
リリィが駆け寄る。
「腕を!」
「大丈夫……」
「大丈夫じゃありません!」
治癒魔法の光。
その最中。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
《仲間を守って戦闘を終える》
1P獲得。
現在:50P
────────────────
カードが光った。
────────────────
《50P特典》
《成長補助》
訓練・実戦・学習によって得られる経験の定着率が向上します。
この能力そのものは
あなたを強くしません。
────────────────
「…………」
レントは説明を読んだ。
「強くならない?」
「どうしたんです?」
リリィが尋ねる。
「五十ポイントの特典」
「何でした?」
「訓練とか実戦で覚えるのが早くなるらしい」
ガルドが笑った。
「最高じゃねえか」
「え?」
「お前に一番必要な能力だ」
「なんで?」
「身体能力を貰った」
ガルドが指を一本。
「武器の基本も貰った」
二本。
「でもな」
レントの額を指で弾く。
「そこから先は、自分で強くなれってことだろ」
「……」
カードを見る。
《この能力そのものは、あなたを強くしません》
「そっか」
レントは笑った。
「じゃあ、訓練するか」
「明日から地獄だぞ」
「え?」
「俺が鍛えてやる」
「ちょっと待て」
「成長しやすくなったんだろ?」
「そうだけど!」
「有効活用しねえとな!」
「ガルド! 笑顔が怖い!」
翌日から。
本当に地獄だった。
◇
一か月後。
レントはD級へ昇格していた。
ポイントは。
────────────────
現在:92P
────────────────
身体能力は以前より大きく伸びた。
だが。
それはポイントで貰ったものではない。
走った。
剣を振った。
ガルドに殴られた。
セシリアに魔物の特徴を教わった。
リリィから応急処置を習った。
依頼へ出た。
失敗した。
また訓練した。
《成長補助》は。
努力を無駄にしない。
そういう能力だった。
「九十二か」
そして。
カードの最後。
────────────────
100P ???
────────────────
何が貰えるのか。
まだ分からない。
「あと四日……」
そう思っていた。
◇
翌朝。
警鐘が鳴った。
カン。
カン。
カン。
「魔物だ!」
ギルドへ駆け込む。
「北門へ魔物の群れが接近しています!」
ミーナが叫んでいた。
「確認数、百以上! ゴブリン、オーク、ウルフ系多数!」
「百!?」
「さらにオーガが二体!」
空気が凍った。
オーガ。
C級相当。
「ガルド!」
「分かってる!」
大剣を掴む。
「セシリア、来い!」
「ええ!」
「リリィは治療所!」
「はい!」
レントも剣を取る。
カードを見る。
────────────────
ログインボーナス。
1P獲得。
現在:93P
《本日のミッション》
① 魔物を10体討伐する
② 負傷者を3人救助する
③ 北門防衛戦を生き延びる
────────────────
あと七。
どうやっても。
今日百にはならない。
「……」
レントはカードを閉じた。
「レント!」
「今行く!」
それでいい。
今ある力で戦う。
◇
北門。
「来るぞ!」
魔物の群れ。
土煙。
怒号。
ガルドが最前線へ。
「おおおおお!」
大剣がオークを吹き飛ばす。
「《炎槍》!」
セシリアの魔法。
「右だ!」
レントが叫ぶ。
ゴブリン。
一体。
二体。
斬る。
「レント、後ろ!」
振り返る。
ウルフ。
避ける。
斬る。
以前の自分なら。
とっくに死んでいた。
だが。
今は違う。
強くなった。
少しずつ。
毎日。
「九!」
九体。
「十!」
十体目。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
1P獲得。
現在:94P
────────────────
それだけ。
身体能力は上がらない。
奇跡の武器も出ない。
「分かってるよ!」
レントはカードへ叫んだ。
「今日はそれでいい!」
戦う。
自分の力で。
◇
「オーガだ!」
巨大な影。
一体目。
ガルドが向かう。
「俺がやる!」
二体目。
別方向。
「まずい!」
冒険者たちが押される。
「セシリア!」
「魔力が……!」
彼女の顔が青い。
撃ちすぎた。
ガルドは一体目と交戦中。
「くそ!」
レントが二体目へ向かう。
「レントさん!」
リリィの声。
「行かないで!」
「誰かが止めないと門まで来る!」
「でも!」
「倒さなくていい!」
レントは剣を構えた。
「時間を稼ぐ!」
オーガが棍棒を振る。
「うおっ!」
避ける。
地面が砕けた。
勝てない。
分かる。
武器適性があるから。
成長補助で戦闘経験も積んだ。
だからこそ。
分かる。
自分では。
こいつを倒せない。
「だったら!」
倒さない。
避ける。
引きつける。
「こっちだ!」
オーガが吠える。
「グオオオオ!」
「そうだ! 俺を見ろ!」
一撃。
避ける。
二撃。
「ぐっ!」
肩を掠める。
吹き飛ばされた。
「レント!」
「まだ!」
立つ。
剣を握る。
また走る。
時間を。
一秒でも。
十秒でも。
ガルドが一体目を倒すまで。
「グオオオ!」
棍棒。
避けきれない。
「くっ……!」
剣で受ける。
折れた。
「レント!」
丸腰。
オーガが棍棒を振り上げる。
「ちくしょう……!」
逃げる。
間に合わない。
その瞬間。
「しゃがめえええ!」
ガルド。
レントは地面へ伏せた。
頭上を大剣が通過する。
「おおおおおおお!」
オーガの膝へ。
直撃。
「グオッ!?」
「セシリア!」
「最後の一発!」
炎槍。
顔面。
「レント!」
ガルドが。
自分の予備剣を投げた。
レントが受け取る。
「行け!」
「おおおおお!」
走る。
倒れかけたオーガ。
首。
剣を。
全力で。
「はあああああ!」
振り抜いた。
◇
夕方。
北門防衛戦は終わった。
死者。
ゼロ。
重傷者多数。
街は守られた。
────────────────
《北門防衛戦を生き延びる》
ミッション達成。
1P獲得。
────────────────
「……ん?」
レントがカードを見る。
────────────────
本日のミッションは達成済みです。
追加ポイントは獲得できません。
現在:94P
────────────────
「だよな」
笑った。
都合よく二個はくれない。
それがこのカードだ。
「何笑ってるの?」
セシリアが隣へ座る。
「いや」
レントは首を振った。
「あと六日だなって」
「百ポイント?」
「うん」
「今日くれればよかったのにね」
「俺もそう思う」
「ケチね」
「ケチだよ」
二人で笑った。
◇
六日後。
朝。
────────────────
ログインボーナス。
1P獲得。
現在:99P
────────────────
「来た」
レントは息を呑む。
あと一つ。
カードが表示する。
────────────────
《本日のミッション》
① D級依頼を1件達成する
② 魔物を10体討伐する
③ 新人冒険者を一人助ける
────────────────
「…………」
レントは三番を見た。
「これにする」
その日の午後。
ギルドへ行くと。
少年が一人いた。
十五歳くらい。
革鎧。
安物の剣。
新品のF級冒険者証。
「すみません……」
依頼掲示板の前で困っている。
「初めてなんですけど、どれを受ければ……」
レントは。
三年前の自分を思い出した。
何も分からなかった。
弱かった。
怖かった。
「薬草採取にしとけ」
「え?」
「最初はな」
依頼書を一枚取る。
「森の浅いところに生えてる。似た毒草があるから、見分け方教えるよ」
「いいんですか?」
「ああ」
二人で森へ向かった。
薬草を探す。
採る。
魔物を避ける。
街へ戻る。
受付へ納品。
「依頼達成です!」
ミーナが笑う。
少年の顔が輝いた。
「やった……!」
その瞬間。
レントの前で。
ポンッ。
────────────────
ミッション達成。
《新人冒険者を一人助ける》
1P獲得。
現在:100P
────────────────
カードが。
金色に輝いた。
「来た……!」
ガルド。
セシリア。
リリィ。
ミーナ。
いつの間にか全員が集まっていた。
「百だ!」
「早く見せろ!」
「私たちには見えないってば」
「何が出たんです?」
レントがカードを見る。
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《100P特典》
固有スキル《ポイントカード》が成長しました。
新しいカードを発行します。
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「…………」
「どうした?」
「新しいカード」
「は?」
目の前のカードが。
ペラッ。
裏返った。
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《ポイントカード 2枚目》
現在:0P
《累計特典》
10P 《身体能力強化Ⅱ》
30P 《武器適性・上級》
50P 《成長補助Ⅱ》
100P ???
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「…………」
レントは黙った。
「レント?」
セシリアが覗き込む。
「どうしたの?」
「二枚目」
「え?」
「二枚目が始まった」
「ガッハッハッハッハ!」
ガルドが腹を抱えた。
「ポイントカードだからな!」
「百個で終わりじゃねえのかよ!」
「二枚目のカードをお渡しします、ってことね」
「店かよ!」
リリィまで笑っている。
ミーナが尋ねた。
「次は何が貰えるんです?」
「十ポイントで《身体能力強化Ⅱ》」
全員が止まった。
「……強くなるじゃねえか」
「うん」
「三十は?」
「武器適性・上級」
「五十」
「成長補助Ⅱ」
「百は?」
「分からない」
沈黙。
そして。
ガルドが笑った。
「じゃあ、また百個だな」
「簡単に言うなよ」
「何言ってんだ」
ガルドがレントの肩を叩く。
「一日二個だろ?」
「まあ」
「たった五十日じゃねえか」
「ミッションが難しくなるんだよ!」
「なら強くなれ!」
「雑!」
セシリアが笑う。
「でも」
彼女が言った。
「いいスキルだったわね」
「……うん」
レントはカードを見る。
一枚目。
百個のスタンプ。
最初は。
ポイントが欲しくて薬草を採った。
ゴブリンを倒した。
模擬戦をした。
仲間と戦った。
誰かを守った。
でも。
その百個の中で。
E級になった。
D級になった。
仲間ができた。
新人を助けた。
「ポイントカードか」
レントは笑った。
「悪くないな」
そして翌朝。
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《ログインボーナス》
1P獲得。
現在:1P
《本日のミッション》
以下から一つ達成してください。
① C級冒険者との模擬戦で一本取る
② オーガを1体討伐する
③ 20キロメートル走る
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「…………」
レントはカードを閉じた。
「ガルド」
「なんだ?」
「今日、暇?」
「おう」
「模擬戦しようぜ」
「いいぞ」
「ちなみに」
「おう」
「一本取らせて」
「死ね」
「即答!?」
ギルドに笑い声が響く。
最低ランクだったF級冒険者レント・アルバ。
彼が後に。
王国でも指折りの冒険者へ成長することを。
この時はまだ。
誰も知らない。
ただし。
後年。
S級冒険者となったレントが。
王都の酒場で。
若い冒険者からこう尋ねられたことがある。
「レントさん! 今、ポイントカード何枚目ですか!?」
その問いに。
英雄は酒を飲みながら。
遠い目をした。
「…………十二枚目」
「すげえ!」
「ちなみに今日のミッションは?」
レントは無言でカードを見せた。
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《本日のミッション》
① 古竜を1体討伐する
② 迷宮最深部へ到達する
③ 妻の買い物に最後まで付き合う
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「…………」
若い冒険者が震えた。
「どれにするんですか?」
王国最強クラスの冒険者は。
迷わず答えた。
「古竜」
「三番は!?」
「無理だ」
「S級冒険者でしょう!?」
「だから分かるんだよ」
レントは静かに酒を飲んだ。
「世の中にはな……戦ってはいけない相手がいる」
翌朝。
レントは古竜討伐へ出発した。
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ミッションを選択しました。
《古竜を1体討伐する》
報酬:1P
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「よし!」
なお。
妻に見つかり。
討伐には行けなかったという。
〈了〉




