欲しがり妹に婚約破棄NTRされたので、実家できままに暮らす事にしました
リアリティ重視。
「エリザベート! 君との婚約は、今日をもって破棄させてもらう!」
王立学園の卒業を祝う夜会。華やかな音楽が流れる大広間で、王太子アルフォンス殿下は高らかに宣言した。
「……はい?」
「僕は真実の愛を見つけたんだ! もう自分の気持ちに嘘をつくことはできない!」
「真実の愛、ですか?」
「ああ、そうだ! 紹介しよう。僕の愛するクラシュカだ!」
そう言って殿下が抱き寄せたのは、なんと私の妹、クラシュカだった。
「お、お姉様……ごめんなさい! 私、どうしても殿下への想いを抑えられなくて……!」
クラシュカは殿下の胸に顔を埋め、よよよ、と泣き崩れた。
なんということでしょう。
まさか実の妹に婚約者を寝取られるなんて!
くっ、くやし〜〜〜〜!
この欲しがりさんめ!
お姉様のものなら何でも欲しがる悪い子だとは思っていましたけれど、まさか婚約者にまで手を出すなんて!
これではまるでエロ同人ですわ!
「エリザベート……すまない。君には本当に申し訳ないと思っている」
「い、いえ……承知いたしました。殿下のお気持ちがそこまで固いのでしたら、私から申し上げることはございません。どうか妹を幸せにしてあげてくださいませ」
「エリザベート……! ありがとう! 君なら分かってくれると思っていたよ!」
殿下は感極まった様子でクラシュカを抱き締めた。
クラシュカも涙を浮かべながら、私に向かって微笑んでいる。
「お姉様……ありがとうございます!」
そのお姉様の婚約者を寝取っておいて、よくもまあそんな顔ができますわね。
……それはそれとして。
これ、私の立場はどうなりますの?
社交界でこんな醜聞が広まったら、私は一生笑いものではありませんか。
……。
…………。
許せませんわ。
そっちがその気なら、こっちも出るとこ出てやりますわよ。
◇ ◇ ◇
「お父様! お母様! これは一体どういうことですの!?」
屋敷に帰った私は、さっそく両親を問い詰めた。
応接室では、お父様がのんびりと紅茶を飲んでいた。
お母様も優雅に焼き菓子をつまんでいる。
「ああ、エリザベート。帰ったのか」
「帰ったのか、ではありませんわ! どうして殿下とクラシュカの婚約をお認めになったのです!?」
「いやあ、王太子殿下がどうしてもと仰るのでなあ」
「クラシュカも昔から殿下をお慕いしていたそうですし。ねえ、あなた?」
「うむ。まあ、若い二人が幸せなら、それが一番だろう」
こっ、コイツらぁ……! 何ヘラヘラニコニコしやがっていらっしゃるのです!?
「では、私はどうなるのです!?」
「まあまあ、そう怒るな。お前にもそのうち良い縁談が来るだろう」
「そうよ、エリザベート。あなたは公爵家の娘なのですから、きっと素敵な殿方が見つかるわ」
「そういう問題ではありませんわ〜〜〜!!!」
実の妹に婚約者を寝取られた女という不名誉な肩書きを背負わされて、今さらどこの誰が嫁に貰ってくれるというのでしょう。
もう恥ずかしくて表に出られませんわ!
「ううっ……ひどいですわ……。あんまりですわ……オヨヨ」
……なるほど、よ〜っく分かりました。
お二人とも、私を随分と軽く見ていらっしゃるようですわね。
そこまで仰るのでしたら、こちらにも考えがあります。
このエリザベート・フォン・ローゼンベルク。
やられっぱなしで終わるような女ではありませんわ!
必ずや後悔させて差し上げます。
オーッホッホッホッ!!!
◇ ◇ ◇
翌朝。
「お嬢様、朝でございます」
「……」
「お嬢様?」
「……食事はドアの前に置いておいてくださる?」
「え?」
「聞こえませんでしたの? 食事はドアの前に置いておいてちょうだい」
「ですが、本日は朝食の後に礼儀作法の先生が……」
「お断りしますわ」
「えっ?」
「もう結婚する予定もありませんし、礼儀作法なんて必要ありませんもの。先生にはお帰りいただいて」
「し、しかし……」
「それと、今後は朝起こしに来なくて結構ですわ。眠い時に寝て、起きたい時に起きますので」
私は布団を頭から被った。
「では、おやすみなさいませ〜」
「お、お嬢様ぁ!?」
オーッホッホッホッ!
そう、これこそが私の復讐。
引きこもりですわ!
考えてもみてくださいませ。
公爵家の令嬢ともなれば、毎日毎日やれ礼儀作法だの、やれ社交だの、やれ領地経営の勉強だのと、面倒なことばかり。
朝は決まった時間に起こされ、食事も家族揃って取らなければなりません。
夜会では愛想笑いを振りまき、休日にはお茶会に顔を出す。
しかも王太子の婚約者ともなれば、王妃教育まで受けなければならないのです。
なんという重労働!
それが今や、婚約破棄された身。
もう誰にも気兼ねする必要はありませんわ!
私は今日から、自由に生きます!
働かず、勉強せず、社交もせず。
食べたい時に食べ、眠たい時に眠る。
そう。
不労所得で自由気ままに暮らすのですわ〜〜〜!!!
……え? 不労所得ではなく、ただの親のすねかじり?
細かいことを気にする殿方は嫌われますわよ。
◇ ◇ ◇
一週間が経った。
「お嬢様……そろそろお部屋から出られてはいかがでしょうか?」
「嫌ですわ」
「せめてお着替えだけでも……」
「面倒ですわ」
「もう三日も同じ寝間着を着ていらっしゃいますよ!?」
「まだ三日ですわよ?」
まったく、うちの侍女は心配性で困りますわね。
私はベッドに寝転がりながら、菓子を口に運んだ。
もぐもぐ。
寝ながら食べるお菓子というのは、どうしてこうも美味しいのでしょう。
「それと、お嬢様……こちらの花瓶なのですが……」
「ああ、それは捨てておいてくださる?」
「な、何を入れられたのですか……?」
「お嬢様聖水ですわ」
「いやあぁぁぁぁ!!!」
オーッホッホッホ!
◇ ◇ ◇
一ヶ月が経った。
「あなた……エリザベートが、どんどん社会不適合者に……!」
「……だが、今のあの子を他所に出すわけにもいかん。我が家の沽券に関わる」
「お父様ぁぁぁぁぁ!!! 王家から婚約を……婚約を白紙に戻したいと……お姉様がヒキニートになったせいですわ〜〜〜!!!」
「な、なんだとぉ!? そ、そんな馬鹿な……!」
「うわあぁぁぁん! お姉様のせいで婚約破棄されましたわ〜〜〜!!!」
クラシュカは床に突っ伏して泣き始めた。
お父様はその場に崩れ落ち、お母様は真っ青になっている。
その様子をドアの隙間から見ていた私はこっそりとほくそ笑んだ。
「……あらあら、皆様お揃いで。随分とお困りのようですわね」
「お姉様……!」
ドアを開けて部屋に入ると、クラシュカは涙を拭いながら、私を睨みつけた。
「全部……全部お姉様のせいですわ!」
「まあ、怖い。そんな顔をなさらないで?」
「どうして……どうしてこんなことを……!」
「決まっているではありませんか」
そして、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ざまぁ、ですわ」
「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!」
勝った。
◇ ◇ ◇
それからというもの、我が家の空気はすっかり暗くなってしまった。
お父様は毎日ため息ばかり。
お母様は私の将来を悲観して泣き暮らし、クラシュカに至っては私の顔を見るたびに発狂する始末。
ちなみに私はというと、相変わらず自室で自由気ままに暮らしております。
朝は昼過ぎまで眠り、起きたら食事。
昼寝をして、夕方にはおやつ。
夜は読書をして、ゴロゴロする。
ああ、なんて素晴らしい人生なのでしょう!
こうして私は、婚約破棄という人生最大の危機を乗り越え、念願の自由を手に入れたのでした。
オーッホッホッホ!
めでたしめでたし。
働いたら負けかなと思ってる。
追記
の、伸びねえ……こんなに面白いのに……!!
作者がヘラヘラしながら頑張って書いたのに……やっぱり読者願望充足が足りないのか……!




