9 傲慢
12月21日 福岡県 特殊怪異対策庁
第10課管理区画 地下六階・来客応対区画
AM12:21
呼び出しは、唐突だった。
《村野智也、至急、第六区画へ》
理由なし。 差出人なし。警備員が多い。
……嫌な予感しかしない。
案内されたのは、普段使わない区画。
照明は暗い。 空気が重い。
「……ここ、どこですか」
案内役は答えない。
ただ歩く。
分厚い扉の前で止まった。
——ガシャン。
ロック解除音。
「……どうぞ」
押される。
中は、広い会議室だった。
……いや。
解剖室みたいだった。
金属机。 拘束具。 壁一面の観測モニター。
真ん中に——二人。
一人は、長身の男。
黒いコート。 無表情。 白い手袋。
白髪七三分け。年齢不詳。
目が——死んでいる。
もう一人は、女性。
銀髪。サイドダウン。 細身。 軍服風コート。
微笑んでいる。
……笑ってるのに、怖い。
「初めまして」
女が言った。
声は柔らかい。
「特殊怪異対策庁・第四課」
「処理班長——氷室レイナです」
——来た。
「こちら、執行担当の」
男が一歩前に出る。
「久我零司」
短い。
それだけ。
俺の喉が鳴る。
『……いや……』
マモリガミが縮こまる。
「緊張してます?」
氷室が首を傾げる。
「大丈夫ですよ」
「今日は——まだ殺しません」
……まだ?
「今日の任務は“合同訓練”です」
東雲の声。
いつの間にか、後ろにいた。
「第10課+第4課」 「実地作戦」
「対象は?」
俺が聞く。
久我が答えた。
「6号未満」 「元・適合者」
……最悪。
氷室が補足する。
「暴走寸前の方です」
「あなたと、同じような立場だった人」
胸が締め付けられる。
「場所は——」
モニターに映る。
港湾倉庫群。
夜。 雨。
「門司埠頭・第七倉庫」
「目的」
氷室は微笑む。
「制圧」 「可能なら回収」
「無理なら——」
久我。
「処分」
空気が凍る。
東雲が俺を見る。
「村野くん」 「今回は、前線参加だ」
「……テストですか」
「そうだ」
否定しない。
「拒否権は?」
聞くだけ無駄。
「ありません」
全員同時。
『……こわい……』
マモリガミが震える。
俺は、拳を握った。
「……やります」
声が震えていた。
でも。
逃げたら、終わりだ。
◆ ◆ ◆
出動準備室。
装備を着ける。
防護スーツ。 簡易抑制装置。
侵食モニター。護身用警棒。
全部、重い。
赤霧が肩を叩いた。
「死ぬなよ」
短い。
でも、本気。
「……はい」
三雲も言う。
「判断を誤らないでください」
「感情は——後です」
虫喰は、耳元で囁く。
「生きて帰れよ」 「実験体くん」
……励ましなのか?
車内。
無言。
雨音だけ。
氷室が、ふと俺を見る。
「ねぇ、村野くん」
「はい」
「あなた、自分が処分対象って」
「知ってます?」
直球。
心臓が止まりそうになる。
「……はい」
「ふふ」 「正直で好きですよ」
「だから——」
目が、冷たく光る。
「今日、見極めます」
「“生かす価値”があるか」
遠くに、倉庫群が見えた。
赤い警告灯。
霧。
雨。
久我が短く言う。
「降車準備」
車が止まる。
扉が開く。
冷たい風が吹き込む。
氷室が言った。
「さぁ、始めましょう」
「生存試験を」




