8 憤怒
11月30日 福岡県
特殊怪異対策庁 第10課管理区画
戦術訓練区画 AM10:00
……正直に言う。
この前より、キツい。
「右!遮蔽物使え!」
三雲の声が飛ぶ。
「遅い!!」
——ドン!!
俺の横で爆風。
模擬弾が壁を削る。
「うわぁっ!?」
『……ひだり……!』
マモリガミが警告。
転がる。
床スレスレを光弾が通過。
心臓に悪すぎる。
ここは、模擬市街地。
廃ビル。 車。 標識。 全部、本物そっくり。
「状況は——」 三雲が冷静に続ける。
「敵三体。5号想定」
「視界不良」 「民間人ダミーあり」
「ミス=死亡です」
……プレッシャー。
「前進!」
赤霧が突っ込む。
——ガン!!
壁を蹴って跳ぶ。
模擬怪異の頭部を粉砕。
相変わらず人間じゃない。
「ついて来い、村野!」
「はい!!」
俺は深呼吸。
——考えろ。
この前の失敗。
守られすぎた。
今日は——動く。
「マモリガミ、右後方!」
『……りょうかい……』
影が薄く展開。
防御“半分”。
顕現しない。
——制御。
敵が跳ぶ。
俺は滑り込み盾のような影で押し飛ばす。
「今だ!」
赤霧が拳を叩き込む。
——粉砕。
連携。
できてる。
数分後。
——ピィィッ!
終了音。
全停止。
俺は地面に座り込んだ。
「……生きてる……」
三雲が近づく。
端末を確認。
「……合格です」
珍しい。
褒めた。
「判断速度、向上」 「侵食の抑制も安定」
赤霧も腕を組む。
「……まぁ、マシになったな」
最大級の賛辞。
「やった……」
胸が熱くなる。
◆ ◆ ◆
その夜。
食堂。
ラーメン。
あのお店じゃないけど、念願の。
「……うま……」
泣きそう。
『……うまい……』
一緒に喜ぶな。
そこに——
「よっ」
虫喰がトレー持って現れた。
ニヤニヤ。
嫌な予感。
「ねぇ、村野くんちょーっと授業なんだけど」
声が低い。
「4課って、知ってる?」
「……いえ」
「処理班」
即答。
「失敗作回収係」
空気が凍る。
「簡単に言うとね」
虫喰はスープを飲む。
「“適合失敗者”を殺す部隊」
……は?
「暴走」 「侵食過多」 「制御不能」
「そうなった人間を——消す」
「人間ごと」
喉が詰まる。
「で、最近さ」
虫喰は俺を見る。
「福岡に、4課の人間来てる」
「二人」
「視察名目」
「……でも実態は——」
スプーンを置く。
「ターゲット確認」
『……?』
マモリガミが不安げに揺れる。
「……誰を?」
分かってる。
聞きたくない。
虫喰は、静かに言った。
「君だよ」
世界が、止まった。
「侵食率、上がってるでしょ?
相棒くんとの対話も増えてるし」
「東雲さん、隠してるけど」
「黒野さん、もう切り替えてる」
「三雲さん……気づいてるか微妙」
「赤霧さんだけは——知らない」
「知ったら、暴れるから」
……想像できる。
「じゃあ、俺はどうなるんですか」
震える声。
虫喰は、珍しく真面目だった。
「二択」
「制御を完成させるか」
「処分されるか」
フォークで指す。
「期限、近いよ」
沈黙。
ラーメンが、伸びていく。
「……なんで教えてくれたんですか」
俺は聞いた。
虫喰は笑った。
でも、目は笑っていない。
「研究者だから」
「奇跡が見たいんだよ」
「あと、貴重な実験体がいなくなるのは悲しいからね!」
◆ ◆ ◆
その夜。
ベッドで目を閉じても。
眠れなかった。
『……だいじょうぶ……?』
小さな声。
「……わかんねぇよ」
正直な答えだった。
でも。
心の奥で、決めていた。
——絶対、生き残る。
普通に生きて普通に死ぬんだ




