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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
6/20

6 訓練

11月25日 福岡県 特殊怪異対策庁

    第10課管理区画 自室? AM04:30


目覚ましが鳴るより早く、叩き起こされた。

 ——ドン!!

 「起きろォォ!!」


 扉が蹴破られそうな勢いで開く。


 反射的に飛び起きた。

 「な、何事!?」


 立っていたのは、赤霧赫夜だった。


 ジャージ姿。  腕組み。  目が据わっている。重装外骨格装備済み。


 ——嫌な予感しかしない。


「五分で準備しろ」  「遅れたら、訓練倍な」


 「鬼ですか!?」


 「昨日、アタシが巻き込まれそうだった」  低い声。


 「だから今日は、徹底的にしごく」


 ……私怨じゃん。


◆ ◆ ◆


 連れて行かれたのは、地下訓練区画。

 体育館三個分はある巨大空間だった。


 床は黒い金属。  壁には無数の傷跡。  天井には監視ドローンといくつか武具が刺さっていた。


 ——戦場じゃん。


 「ここが、第10課の実技訓練場だ」

 赤霧は中央に立つ。

 「今日のテーマは——生存」


 「……え?」


「勝ち負けじゃねぇ」  「死なずに立ってろ」

 重すぎる。


◆ ◆ ◆


 赤霧は、俺の前に立つ。

 「村野」


 「はい!」


 「昨日の戦闘、どう思った?」


 「……正直、必死すぎて……」


 「だろうな」

 ズイ、と距離を詰められる。

 「お前、マモリガミに頼りすぎだ」


 『……?』


 後ろで小さく反応。

「守られてる自覚がねぇ」  「だから、判断が遅れる」


 図星だった。


◆ ◆ ◆


 赤霧は、床の端末を操作した。


 ——ガシャン!


 周囲の壁が動く。


 無機質な人型標的が十体、せり上がる。

 目が赤く光る。


 「模擬怪異だ」  「本物より優しい」


 「……本物って?」


 「殺しに来る」


 即答やめて。


◆ ◆ ◆


 「よし、行け」


 「ちょ、待——」

 言い終わる前に。


 ——ドン!!

 一体が突進してきた。


 「うわっ!?」


 反射的に後退。


 『……まもる……!』


 影が膨らむ。

 マモリガミが出かけた瞬間——


 「使うな!!」

 赤霧の怒号。


 ——バキィッ!!


 模擬怪異が、俺のすぐ横で粉砕された。

 ……赤霧が殴った。


 素手で。


 「今のは禁止だ」


 「えぇぇ!?」


 「今日は“自分で”生きろ」


 次の瞬間。


 四方八方から襲ってくる。


 「うわあああ!?」


 転ぶ。  滑る。  ぶつかる。


 ——ボコッ!

 肩に直撃。


 「ぐっ……!」


 視界が揺れる。


 『……まもる……』


 「我慢しろ!」


 赤霧が叫ぶ。

 「頼るな!」  「考えろ!」


 息が荒くなる。

 足が震える。

 頭が真っ白になる。


 ——このままじゃ、死ぬ。


 「……くそっ」

 俺は歯を食いしばった。


 転がり込む。  柱を使う。  死角に入る。

 ——避けろ。  逃げろ。  時間を稼げ。


 必死に考える。


 五分。  十分。  二十分。


 いつの間にか、動きが止まった。


 模擬怪異、全停止。


 俺は床に倒れ込んだ。

 「……はぁ……はぁ……」


◆ ◆ ◆


 赤霧が近づいてくる。

 「……合格」


 「え?」


 「今日はな」

 しゃがんで、目を合わせる。


「昨日な」


「お前の射線の位置に、アタシがいた」


 「一歩ズレてたら、死んでた」


 静かな声。


 「だからムカついた」  「弱い自分にも」  「弱いお前にも」


 ……重い。


 赤霧は立ち上がる。

 「いいか」

「守られるだけの奴は、いずれ守れなくなる」


 「お前は——」  「戦え」


 『……たたかう……』


 マモリガミが小さく呟いた。


 俺は、床に座ったまま笑った。

 「……スパルタすぎません?」


 「今さらだ」


 肩をすくめる。

 「明日は、倍だ」


 「やめてください!!」


 赤霧は、ほんの少しだけ笑った。




―――――――――――――――――――――




……笑ったと思った、その直後だった。

 背中が、ぞくりとした。


 ——嫌な寒気。


 『……きけん……』


『……たたかう……』


 マモリガミの声。

 低く、鋭い。


 『……あのひと……』


 「……え?」

 俺が聞き返す前に。

 影が、勝手に蠢いた。


◆ ◆ ◆


 ——ズルッ。

 足元の影が盛り上がる。


 黒い液体みたいに広がり、形を持つ。

 骨組み。  肉。  皮膚。

 数秒で、“もう一人の俺”が立ち上がった。


 ——のっぺらぼう。


 ひび割れた顔。

 黒い霧が漏れる。


 顕現。


 「……おい」

 赤霧が眉をひそめる。


 『……きけん……』


 マモリガミが赤霧を見据える。


 『……ころす……まえに……まもる……』


 「待て!!」

 俺は叫んだ。

 「違う!赤霧さんは敵じゃ——」


 聞こえていない。


 ——ドン!!

 床が砕けた。

 マモリガミが、一気に距離を詰める。

 異様に伸びた腕。

 爪のような指。

 赤霧の首を狙う。


 「チッ」


 ——ガシッ!!


 赤霧は、片手で掴んだ。


 ……止めた。


 怪異の腕を。


 「は?」


 俺の口から、間抜けな声が出た。


◆ ◆ ◆


 「……なるほど」

 赤霧が呟く。


 「これが、お前の“守護神(マモリガミ)”か」


 『……はなせ……』


 影がうねる。

 別の腕が生成され、背後から襲う。


 ——ブン!!

 赤霧は、身体を捻る。


 回避。


 肘打ち。


 ——ゴン!!

 マモリガミの胴体がへこむ。


 黒い霧が噴き出した。


 『……ッ……!?』


 「遅い」

 赤霧は踏み込む。


 ——ドン!

 拳。

 腹部直撃。


 ——バキッ!!

 衝撃音。


 マモリガミが吹き飛ぶ。

 壁に叩きつけられる。


 ——ズガァァン!!

 コンクリが砕けた。


 「え……」


 俺は、言葉を失った。

 怪異が。  殴られて。  壁に埋まった。


 ……この女人間かよ。


◆ ◆ ◆


 『……まも……る……』


 ふらふらと立ち上がる。

 体が歪む。


 影が暴走する。

 牙。  鎌。  刃。

 形を変えながら突進。


 「しつこい」

 赤霧は、構えすらしない。


 ——ガン!!

 正面から、頭突き。


 マモリガミの顔面に直撃。

 ひび割れが走る。


 ——パキパキ……。

 『……あ……』


 次の瞬間。

 赤霧の回し蹴り。


 ——ドォン!!

 横腹に炸裂。

 マモリガミは床を転がる。


 何度も跳ねる。

 『……ま……も……』


 声が、弱々しくなる


 「やめろ!!」

 俺は叫んだ。

 「もういい!!」


◆ ◆ ◆


 赤霧は、ピタリと止まった。

 拳を止めたまま、俺を見る。

 「……止めるか?」


 「……はい」


 即答だった。


 これ以上、見ていられなかった。


 赤霧は、ふっと息を吐いた。

 「……安心しろ」

 「殺さねぇ」

 近づいて、影を踏みつける。


 ——ズン。

 マモリガミの動きが止まる。


 拘束。

 純粋な“力”で。


◆ ◆ ◆


 『……ごめ……』

 かすれた声。

 『……まもれ……なか……』


 「違う!」

 俺は駆け寄った。


 「守ってくれてる!」  「十分だ!」

 影が、少しだけ縮んだ。


 赤霧は腕を組む。

 「覚えとけ、村野」

 「コイツは強い」  「でも万能じゃねぇ」

 「制御できなきゃ、足手まといになる」


 ……胸に刺さる。


 赤霧は背を向ける。


 「次は——」  「コイツと一緒に強くなれ」

 「じゃなきゃ、どっちも死ぬ」


 俺は、床に座り込んだ。

 影を抱き寄せる。


 「……ごめんな」

 『……いっしょ……つよく……』


 小さな声。

 震えていた。


 ——初めて、負けた守護神(マモリガミ)は。

 こんなにも、弱々しかった。



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