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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
5/20

5 侵食

作戦終了から、三時間後。


 俺は、白い部屋にいた。

 壁。天井。床。

 全部、無機質な白。


 自室、というより——隔離室。

 「……知ってる天井だ」

 ベッドの上で、天井を見つめる。


 体はだるい。

 頭の奥が、じんじん痛む。


 『……つかれた……』

 マモリガミも、珍しく静かだった。


◆ ◆ ◆

 ——コン。

 ノック。

 東雲が入ってきた。

 タブレットを持っている。

 「気分は?」


 「最悪です」


 「正常だねぇ」

 軽く笑って、椅子に座る。


◆ ◆ ◆


 「まず、結果から言おうか」

 タブレットを操作する。

 壁に、ホログラムが浮かんだ。

 【侵食率:37.4%】

 「……高いんですか?」


 「高いよ」

 即答だった。


 「平均適合者は、初陣で20%前後だね」

 ……倍近い。


◆ ◆ ◆


 東雲は、淡々と説明を続ける。

 「この世界には、三つの“層”があるんだよ」


 画面に図が浮かぶ。

 ・現実層

 ・記憶層

 ・深層

 「ぼくたちが生きているのは現実層」


 「怪異が生まれるのは、主に記憶層と深層だね」


 「……記憶?」


 「人間の後悔、恐怖、執着」

 「それが沈殿する場所だ」


◆ ◆ ◆


 「侵食とは——“向こう側”に近づくこと」


 東雲は、俺を見る。

 「君の場合、マモリガミと繋がっている」

 「つまり——半分、深層に足を突っ込んでいるんだよ」


 背中が寒くなる。

 「……戻れなくなったり?」


 「あるよ」

 また即答。


◆ ◆ ◆


 「侵食率が50%を超えると、自我が揺らぐ」

 「70%で、人格崩壊」

 「90%で——怪異化する」


 「……元、人間?」


 「そうだよ」

 《潮喰い》の顔が、脳裏に浮かぶ。

 ——人の形だった。


 「じゃあ、あれも……」


 「元は、港で行方不明になった作業員だね」

 重すぎる。


◆ ◆ ◆


 東雲は、少しだけ声を和らげた。

 「だからこそ、管理が必要なんだ」


 「適合者は、怪異と戦える」

「だが、同時に——最も危険な存在でもある」


 「……爆弾みたいですね」


 「正確には、生きてる特異災害だねぇ」


 笑えない。


◆ ◆ ◆


 「じゃあ、マモリガミは?」

 俺は聞いた。

 「アイツは……何なんです?」


 東雲は、一瞬だけ黙る。


 「正式分類は《共生型深層存在》」


「簡単に言えば——守護霊と寄生虫の中間だ、まぁ元神格存在に分類される特殊災厄だがね」


 「ひどくないですか?」

 『……ひどい……』

 後ろで小さく抗議が入る。


◆ ◆ ◆


 「共生型の元神格存在は稀少だ」

 「君が生きている理由でもある」

 「だが——」

 東雲の視線が鋭くなる。

 「一歩間違えれば、最悪の怪異になる」

 「史上最大級の特殊怪異災害は、全部このタイプだった」


 ……嫌な予感しかしない。


◆ ◆ ◆


 沈黙。

 しばらくして、東雲が立ち上がった。

 「明日から、訓練だ」


 「侵食制御」

 「能力運用」

 「精神耐性」


 「全部、叩き込む」


 「……逃げたら?」


 「拘束だねぇ」

 即答三連続。


◆ ◆ ◆


 扉の前で、東雲は振り返った。

 「村野くん」

 「君は今——境界線にいる」

 「人か」

 「怪異か」

 「どちらになるかは——君次第だよ」

 扉が閉まる。


◆ ◆ ◆


 静寂。

 俺は、拳を握った。

 「……人で、いたいな」

 『……ねがい……まもる……』


 小さな声が、重なった。


 ——こうして、俺の“戦い”は本格的に始まった。

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