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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
3/22

3 怪始


―――――――――――――――――――――


 東雲は俺を見る。

 「村野くん、ようこそ、特異点へ」


 一瞬、意味が分からなかった。

 「……歓迎されてるんですか、それ」


 「もちろん。取り憑かれてるのに生きてる。

  それだけで、十分すごい」

 軽い口調なのに、不思議と嘘には聞こえなかった。


◆ ◆ ◆


 東雲は卓上端末を操作する。

 壁面モニターに、地下構内の映像が映し出された。


 薄暗いトンネル。

 水たまり。

 崩れかけたホーム。


 その奥で——何かが、蠢いている。

 「今回の対象は、未登録怪異」

 東雲が説明する。

 「仮称《潮喰い》。

  港湾エリアの負の記憶に反応して発生した可能性が高い」


 虫喰が補足する。

 「失踪者の残留波形と一致してる。

  ほぼ確定で“捕食型”だね」


 ……嫌な単語しか出てこない。


◆ ◆ ◆


 三雲が俺を見る。

 「村野。あなたは後衛配置です」


 「……後衛?」


 「赫夜の前に出ない。

  能力が暴発すれば、味方が死にます」


 はっきり言うな。

 「でも、使うんですよね……俺の力」


 「使わなければ、あなたが死ぬ」

 即答だった。


◆ ◆ ◆


 赤霧が立ち上がり、拳を鳴らす。

 「準備するぞ」


 虫喰も端末を閉じる。

 「よーし、初陣だねぇ」


 黒野は、俺に小さなケースを渡した。

 「侵食抑制剤です。

  異変を感じたら即注射してください」


 「……効くんですか?」

 「六割程度」

 微妙すぎる。


◆ ◆ ◆


 俺は、思わず聞いた。

 「……俺、行かなきゃダメですか」


 部屋が静まり返る。


 東雲だけが、穏やかに答えた。

 「義務ではない」


 一拍。


「だが——逃げれば、君は一生“管理対象”だ」

 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


 管理されて生きる。

 檻の中で、安全に腐る。


 それが“普通”なのか?

 頭の奥で、あの声が囁く。


 『……まもる……だいじょうぶ……』

 ……くそ。

 選択肢なんて、最初からなかった。

 「……行きます」

 声は震えていたが、嘘ではなかった。


 東雲は、満足そうに頷く。

 「決まりだ。出動準備」


◆ ◆ ◆


 十分後。

 俺は、防護ジャケットと軽装甲を身につけさせられていた。


 「重……これ、意味あります?」


 「多少はね」

 虫喰が笑う。

 「精神汚染を二割軽減。

  残りは……気合」


 「無理だろ」


◆ ◆ ◆


 ワゴン車は、博多湾沿いを走った。


 夜の港は静かで、不気味なくらい穏やかだった。

 コンテナの影が、怪物みたいに並んでいる。


 「……ここ、普段こんな静かですっけ」


 「異常現象発生時は、だいたいこうなる」

 三雲が答える。

 「“日常が薄くなる”」


 嫌な表現だ。


◆ ◆ ◆


現場についた

三雲は警棒?のようなものを

虫喰はSFチックな拳銃を

赤霧はゴテゴテした小手を装備してた


 封鎖トンネル前。

 錆びた鉄扉。

 警告テープ。


 赤霧が殴り飛ばす。

 「失礼しまーす」

 ——ガァン!


 派手な音とともに、扉が歪んだ。

 「もうちょっと静かに……」


 「無理」

 即答だった。


◆ ◆ ◆


 中は、湿った闇だった。

 水滴の音だけが響く。


 ……いや。

 違う。


 “何かが、呼吸している”。


 背筋が凍る。

 俺の胸が、熱を帯びた。


 『……ちかい……』

 マモリガミの声。

 『……あぶない……』


 「……います」

 思わず呟く。


 三雲が即反応した。

 「感知?」


 「……多分」


 虫喰が目を見開く。

 「マジ? まだ視認前なのに?」


 赤霧がニヤリと笑う。

 「当たりだな」


◆ ◆ ◆


 闇の奥で、水音が大きくなった。

 ずるり、と。

 何かが、這い出してくる。


 人の形。


 だが、顔が溶け、空洞だらけ。

 そこから、無数の“目”が覗いていた。


 「……あれが、怪異……」

 息が止まる。


 東雲の声が、通信に入る。

 「村野くん」


 「……はい」


 「君の“物語”は、ここから始まる」


 怪異が、こちらを見た。

 世界が、歪んだ。

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