14 一人
祠。
村の最奥。
山肌を抉るように建っている。
苔。
割れた石段。
歪んだ注連縄。
——核。
近づくだけで、
頭が、痛む。
「……ここ……」
足元が、ふらつく。
祠の奥。
闇の中に——
“何か”が、あった。
形が、定まらない。
人。
木。
骨。
家。
全部が、溶けて混ざった塊。
声が、響く。
——ここにいろ。
——守ってやる。
——外は、怖い。
頭の奥に、直接。
侵食。
意識が、引きずられる。
《侵食率:67.4%》
警告音。
ピッ——
ピッ——
「……っ!」
足元の影が、強く揺れた。
マモリガミが、前に出る。
俺と、核の間に立つ。
『……だめ……』
声が、低い。
『……これは……ちがう……』
核が、歪む。
——一緒になろう。
——お前も、ここにいればいい。
俺の影が、引き延ばされる。
絡み取られる。
「……やめ……」
言い切る前に。
マモリガミが、動いた。
影が、爆ぜる。
槍。
牙。
鎌。
すべてが、核に向かう。
『……まもる……』
『……まもるため……』
——破壊。
核が、砕ける。
悲鳴。
村全体が、震える。
光が、反転する。
「……っあ——!!」
視界が、白に染まった。
◆ ◆ ◆
——現実。
冷たい風。
雨。
夜。
俺は、村の中央に、立っていた。
……いや。
立っていない。
膝をついている。
周囲。
——死骸。
住民。
老人。
女。
子供。
全員。
無残に。
影に裂かれ、
貫かれ、
切り刻まれている。
胃が、ひっくり返る。
「……あ……」
吐き気。
だが、吐くものもない。
足音。
複数。
「村野!!」
赤霧の声。
振り向く。
第10課。
東雲。
三雲。
虫喰。
全員、生きている。
その後ろ。
第四課。
氷室。
久我。
氷室が、俺を見る。
——そして、腕のモニターを見る。
一瞬。
笑みが、消えた。
「……侵食率」
端末を操作する。
数字が、共有される。
《侵食率:72.8%》
——規定超過。
空気が、凍る。
「……は?」
虫喰が呟く。
「……おい……」
赤霧の声が、低くなる。
氷室が、一歩前に出る。
「領域、壊しました?」
「……はい……」
「怪異も?」
「……核を……」
氷室は、ゆっくり頷く。
「なるほど」
そして。
周囲の死骸を見る。
「……これを?」
俺は、答えられない。
久我が、ぽつりと言う。
「……怪異反応は消えている」
「だが——」
俺を見る。
「異常値は、残っている」
氷室が、微笑んだ。
今までで、
一番、冷たい笑み。
「おかしいですね」
「怪異は消えたのに」
「——侵食は、進んでいる」
間。
「……ねぇ、村野くん」
声が、優しい。
「それって」
「どっちが怪異なんでしょう?」
胸が、締め付けられる。
「……ちが……」
声が、掠れる。
「俺は……守ろうと……」
氷室が、遮る。
「結果は?」
死骸。
村。
静寂。
「……あなたが、一番危険です」
久我が、静かに武器に手をかける。
「処分対象」
「即時認定、可能」
赤霧が、一歩前に出る。
「待て!」
「こいつが——」
東雲が、止める。
珍しく。
表情が、硬い。
「……今は、待とう」
氷室が首を傾げる。
「なぜ?」
東雲は、俺を見る。
住民の死骸に囲まれ、
血に濡れ、
影を足元に従えた俺を。
「——これ以上追い詰めたら」
低い声。
「“本当に”取り返しがつかなくなる」
沈黙。
雨音だけが、響く。
俺は、
何も言えなかった。
守ったつもりで。
壊して。
生き残って。
——否定された。
世界に。
味方は、もういない気がした。




