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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
14/20

14 一人


 祠。

 村の最奥。


 山肌を抉るように建っている。

 苔。

 割れた石段。

 歪んだ注連縄。


 ——核。

 近づくだけで、


 頭が、痛む。

 「……ここ……」

 足元が、ふらつく。


 祠の奥。

 闇の中に——


 “何か”が、あった。

 形が、定まらない。


 人。

 木。

 骨。

 家。


 全部が、溶けて混ざった塊。

 声が、響く。


 ——ここにいろ。

 ——守ってやる。

 ——外は、怖い。


 頭の奥に、直接。

 侵食。


 意識が、引きずられる。

 《侵食率:67.4%》


 警告音。

 ピッ——

 ピッ——


 「……っ!」

 足元の影が、強く揺れた。


 マモリガミが、前に出る。

 俺と、核の間に立つ。


 『……だめ……』

 声が、低い。

 『……これは……ちがう……』


 核が、歪む。


 ——一緒になろう。

 ——お前も、ここにいればいい。


 俺の影が、引き延ばされる。

 絡み取られる。


 「……やめ……」


 言い切る前に。

 マモリガミが、動いた。

 影が、爆ぜる。


 槍。

 牙。

 鎌。

 すべてが、核に向かう。


 『……まもる……』

 『……まもるため……』


 ——破壊。


 核が、砕ける。

 悲鳴。

 村全体が、震える。


 光が、反転する。


 「……っあ——!!」


 視界が、白に染まった。


◆ ◆ ◆


 ——現実。


 冷たい風。

 雨。

 夜。


 俺は、村の中央に、立っていた。

 ……いや。

 立っていない。


 膝をついている。

 周囲。


 ——死骸。

 住民。

 老人。

 女。

 子供。

 全員。


 無残に。

 影に裂かれ、

 貫かれ、

 切り刻まれている。

 胃が、ひっくり返る。


 「……あ……」

 吐き気。

 だが、吐くものもない。


 足音。

 複数。


 「村野!!」

 赤霧の声。


 振り向く。

 第10課。

 東雲。

 三雲。

 虫喰。

 全員、生きている。


 その後ろ。

 第四課。

 氷室。

 久我。


 氷室が、俺を見る。

 ——そして、腕のモニターを見る。


 一瞬。

 笑みが、消えた。

 「……侵食率」

 端末を操作する。

 数字が、共有される。


 《侵食率:72.8%》

 ——規定超過。


 空気が、凍る。


 「……は?」

 虫喰が呟く。


 「……おい……」

 赤霧の声が、低くなる。


 氷室が、一歩前に出る。

 「領域、壊しました?」


 「……はい……」


 「怪異も?」


 「……核を……」

 氷室は、ゆっくり頷く。

 「なるほど」


 そして。

 周囲の死骸を見る。

 「……これを?」


 俺は、答えられない。


 久我が、ぽつりと言う。

 「……怪異反応は消えている」


 「だが——」

 俺を見る。

 「異常値は、残っている」

 氷室が、微笑んだ。


 今までで、

 一番、冷たい笑み。


 「おかしいですね」

 「怪異は消えたのに」

 「——侵食は、進んでいる」


 間。


 「……ねぇ、村野くん」

 声が、優しい。


 「それって」

 「どっちが怪異なんでしょう?」


 胸が、締め付けられる。

 「……ちが……」


 声が、掠れる。

 「俺は……守ろうと……」


 氷室が、遮る。

 「結果は?」


 死骸。

 村。

 静寂。


 「……あなたが、一番危険です」


 久我が、静かに武器に手をかける。

 「処分対象」

 「即時認定、可能」


 赤霧が、一歩前に出る。

 「待て!」

 「こいつが——」


 東雲が、止める。

 珍しく。

 表情が、硬い。

 「……今は、待とう」


 氷室が首を傾げる。

 「なぜ?」


 東雲は、俺を見る。

 住民の死骸に囲まれ、

 血に濡れ、

 影を足元に従えた俺を。


 「——これ以上追い詰めたら」

 低い声。

 「“本当に”取り返しがつかなくなる」


 沈黙。

 雨音だけが、響く。

 俺は、

 何も言えなかった。


 守ったつもりで。

 壊して。

 生き残って。

 ——否定された。


 世界に。

 味方は、もういない気がした。


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